第3話 寂しげな背中

アースガルズに滞在し始めてから、数日・・・-。

王「本当に、あなたのおかげで助かりました」

○○「そんな、私は何もしていませんから・・・・・・」

王妃「いいえ、あなたがいなければ、どうなっていたことか・・・・・・」

トール「・・・・・・」

私はトールくんを助けた恩人として、城の人々に歓迎され・・・・・・

彼のご両親である王様達のご厚意によって、何不自由なく過ごしていた。

王「ヨルムンガンドを倒せるのは、トールを置いて他にないからな」

王妃「ええ。トールは、このアースガルズの希望・・・・・・。 ユメクイにやられたと聞いた時は生きた心地がしなかったわ」

兵士1「トール様がいてくださるならば、何も恐れることはありません!」

兵士2「トール様ならば、必ずやヨルムンガンドを倒してくださるはず!」

謁見の間にいる人達が、口々にトールくんを褒め称える。

○○「すごいですね、トールくん」

トール「何が?」

○○「だって・・・・・・。 皆さんの期待を一身に背負っているから・・・・・・」

トール「ミョルニルに選ばれたんだ。その相手に期待しない奴はいないだろ」

そう言って、トールくんは髪を掻き上げた。

けれど・・・・・・

トール「・・・・・・この国の未来は、俺にかかっている。 俺がやらなければいけないんだ」

○○「え・・・・・・?」

トールくんはぽつりとつぶやいた後、背中を向けて歩き出す。

その後ろ姿は、どこか寂しそうに見えて・・・・・・

(気のせい、かな・・・・・・?)

私の胸の奥に、小さなしこりのようなものが残ったのだった・・・-。

・・・

・・・・・・

数時間後・・・・・・

(月が綺麗・・・・・・)

皆が寝静まった後、なんとなく寝ることができなかった私は、少し風に当たろうと中庭へとやってきた。

けれど、その時・・・・・・

(何の音・・・・・・?)

風を切るような音に気づいた私は、音のする方へと歩く。

すると・・・-。

○○「トールくん・・・・・・?」

月明かりの下、トールくんがミョルニルを勢いよく振り回している。

(すごい・・・・・・トールくんって、こんなに力があったんだ・・・・・・)

身の丈ほどもあるミョルニルを力強く振り抜く度に、トールくんの汗がきらきらと輝く。

その姿は真剣で、とても美しくて・・・・・・なぜかとても神聖に感じられた。

(皆の期待に応えるために、特訓してるのかな? でも・・・・・・)

(なんだか、少し辛そう・・・・・・)

トールくんは歯を食いしばりながらミョルニルを振るっている。

時間を追うほどに、彼の額を流れる汗の量も増えていった。

その姿から目を離せずにじっと見つめていると・・・・・・

トール「・・・・・・いつまで見てる気だ?」

ふと動きを止めたトールくんが、睨むように私の方に顔を向けた。

○○「あ・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」

(気づかれてたんだ・・・・・・!)

慌てる私を、トールくんが冷たい目で見据える。

トール「まさか、俺の体が心配だのなんだの、言うつもりじゃないだろうな?」

○○「それは・・・・・・」

トール「アンタに心配されるほど、俺はヤワじゃないんだ。 余計なことを考えてる暇があったら、とっとと部屋に戻って寝ろ」

冷たく言い放つと、トールくんは私を背に向けミョルニルを握った。

けれど、その背中はやっぱりどこか寂しげで・・・・・・

(・・・・・・トールくん、いつも一人で頑張ってたのかな)

(余計なことはするなって言われちゃいそうだけど、何か私にできることは・・・・・・)

美しい月の下、懸命にミョルニルを振るい続けるトールくんを見つめながら・・・・・・

私は、彼のためにできることを考え続けたのだった・・・-。

 

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