第5話 女の子の理由

トルマリと一緒に城への道を歩いていると、森の小道にさしかかる。

(綺麗なところ……)

トルマリ「綺麗でしょ? ちょっと休憩しようか」

〇〇「うん」

私達は、木陰に並んで腰をおろした。

木々の間を通り過ぎる風が、とても爽やかな香りを運ぶ。

トルマリ「ああ、生き返る。植物っていいよね」

トルマリは大きく深呼吸をして瞳を閉じた。

トルマリ「あのさ……さっきは本当にありがとう」

〇〇「さっき?」

トルマリは、何かをうかがうように私を見つめる。

(……トルマリ?)

トルマリ「ぼくのこの格好が似合うって……」

〇〇「うん。とても似合うよ」

トルマリ「……嬉しい」

トルマリは私の言葉に、微かに頬を染めた。

トルマリ「〇〇って面白いね」

(ただ、思った事を言っただけなんだけどな)

トルマリ「ぼくね、周りから変な目で見られても、これはぼくの個性だと思って、気にしてなかったんだ。 でも、さすがに『気持ち悪い』はちょっと悲しくなっちゃった」

トルマリはふふっと笑い、肩をすくめて見せる。

(あ……)

その仕草に胸が、きゅっと締め付けられる。

(どうしたんだろう……?)

トルマリ「〇〇にだけ、言っちゃおうかな」

〇〇「え?」

トルマリは、まっすぐに私の瞳を覗き込む。

トルマリ「ぼくね、アルマリの事が大好きなんだ」

〇〇「……アルマリ?」

トルマリ「ぼくの双子の弟だよ。 ぼくは長男だから、このままいくとぼくが次の国王になっちゃうんだよね。 でも、アルマリのほうが国王にふさわしいから。 アルマリは、とても頭がよくて、ぼくよりもこの国を守る力を持っているんだ。 それに、アルマリは国王になりたいみたいだし。 だから、ぼくは自分が好きな格好をして、自由気ままに生きるの」

(……だから女の子の恰好を)

トルマリ「そうすれば、みんなもアルマリの方が国王にふさわしいって思うでしょ?」

〇〇「……トルマリ」

不意にトルマリの手が私の頬にそっと触れ、大きな瞳で私を見つめる。

トルマリ「〇〇、そんな顔しないで」

〇〇「……!」

(私、どんな顔してたんだろう)

(でも、なんだか胸が苦しくて……)

〇〇「ごめんね、私…-」

頬に触れるトルマリの手が離れ、今度はその人差し指が私の口に触れて言葉を奪う。

トルマリ「この格好は、ぼくが本当に好きでしてるんだから、大丈夫だよ」

(トルマリ……)

トルマリの表情は私をなだめるように穏やかで、私はどうにかそれに応えて笑おうとする。

(優しい人……)

陽に輝くブロンドが、なぜだかとても切なく映った…-。

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