第4話 未来への意志

市場で倒れていた男の子を町医者の元へ運び届け、ひと息ついた頃…―。

気付けば頭上の空は、茜色に染まり始めていた。

町全体を優しく包み込む夕焼けを見上げて、ベウルさんは自分の両腰に手を当てた。

ベウル「すっかり遅くなっちゃったね。そろそろ、お城へ戻ろうか」

○○「はい」

ベウル「……さっきのことなんだけど」

歩きながら、背の高いベウルさんが私を見下ろす。

○○「さっき?」

ベウル「うん。励ましてくれて嬉しかった。一瞬、おれがしてきたこと、何の意味もなしていないような気がしたから……」

○○「……信じてあげてください、自分のことを」

ベウル「○○ちゃん……」

○○「市場での出来事は、悲しかったけど……ベウルさんの行動は素敵でした」

ベウル「そっか。ありがとう……」

ベウルさんは照れながら、大きな手で頭をかいた。

ベウル「アベルディアは国自体がまだ、あまり豊かじゃないんだ。そのせいで、あの子みたいに大変な思いをしている子どもが多くて……おれにも弟や妹がいるから、見ていてすごく辛い。でも近隣国との関係を改善すれば、貿易で利益を上げられるようになる。この国は、美味しい農作物には恵まれているから……獣人への偏見を取り払えれば、少しずつでも色んなことが、上手くいくようになるはずなんだ」

そう言って夕焼け空を見上げるベウルさんの横顔は、強い決意に満ちていた。

○○「私、応援してます」

ベウル「えっ?あ、えっと……うん。うぅ……」

○○「ベウルさん?」

振り返った彼の頬は、なぜか真っ赤に染まっていて……

ベウル「そんなかわいい笑顔を浮かべて、そんなかわいいこと言われると……どうしたらいいか、わかんなくなるよ」

ベウルさんの言葉を聞き、私も途端に恥ずかしくなる。

私達はお互いに意識して、城までの帰路、少し気まずい沈黙を作り出してしまった…―。

……

ベウルの弟「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

ベウルの妹「この人が、お友達のお姫様?」

ベウルさんの城に着くなり、彼の兄弟と思しき子ども達が、嬉しそうに私達を取り囲んだ。

ベウルの妹「お姫様、わたしがお城を案内してあげる!」

妹さんが、かわいらしい笑みを浮かべながら私の手を取る。

ベウル「あっ、こらこら。○○ちゃんを困らせちゃダメだよ!」

ベウルの妹「はーい!」

妹さんはそう言うなり、私を城の奥へと引っ張っていく。

その後ろを、にこやかに笑うベウルさん達がついてきて……私達は皆で、楽しくお城めぐりをしたのだった。

……

すっかり懐かれてしまったのか、城の案内が終わりベウルさんの部屋で話している間も、ベウルさんの弟さん達は、私達の傍にぴったりとくっついて離れなかった。

ベウルの弟「お兄ちゃん、あれやって!ぶーんってするやつ!」

ベウルの妹「わたしもわたしも!」

ベウル「ああ、いいよ。ほら、こっちにおいで」

(ぶーんってするやつ……?)

不思議に思いながら見守っていると、ベウルさんの腕に兄弟達がつかまり……

ベウル「そーら、いくぞー!しっかりつかまってろよ~」

ベウルさんは腕を持ち上げ、その場でぐるぐると回っていた。

(ふふっ。弟さん達、すごく楽しそう。それにベウルさんも、とっても優しい笑顔で……)

面倒見の良い彼を穏やかな気持ちで見つめていた、その時……

執事「ベウル様。晩餐会の準備が整いました」

ベウル「おっ、ありがとう。それじゃあ皆、行こうか」

○○「晩餐会……?」

ベウル「ああ。ささやかだけど、きみのために用意させてもらったんだ」

ベウルの妹「お姫様、行こ?わたし、食堂まで案内してあげる!」

○○「あっ、うん。ありがとう」

(皆、本当に優しい人達だな……)

私はベウルさんの妹さんに手を引かれながら、あたたかい気持ちで食堂へと向かったのだった…―。

 

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