月7話 ベウルの豹変

ベウルの弟「ねえねえ、お姫様。お兄ちゃんを起こすの手伝って!」

ベウルの妹「ええー!だめだよ。お兄ちゃん怖いもん!お姫様、びっくりしちゃうよぉ」

(怖い?……ベウルさんが?)

私は首を傾げながらも、弟さん達とベウルさんの寝室へと向かう…―。

けれど、寝室の前に辿りついたところで、ベウルさんの弟さんが慌てて立ち止まった。

ベウルの弟「いけない!お兄ちゃんを起こすのに、大事なもの忘れてきちゃった……!」

ベウルの妹「ええっ!?『あれ』がないと大変だよ!」

ベウルの弟「うん、とってこないと……お姫様ちょっと待っててね!」

○○「え……?」

弟さん達は私を残し、廊下の向こうへと、いっせいに駆け出してしまった。

(慌てて飛び出していっちゃったけど……『あれ』ってなんだろう……?)

不思議に思いながら、私は部屋の扉と廊下を交互に見た。

(どうしようかな……)

ー----

ベウル「じゃあさ……次の約束をさせてくれる?春になったら、また会いに来て欲しい」

ー----

柔らかな笑顔を思い出すと、早く会いたいという気持ちがこみ上げて来る。

(ベウルさん……)

迷いながら寝室の扉をノックし、しばらく待ってみる。

でも、中から返事はなかった。

(やっぱりベウルさん、まだ寝ているみたい……すぐに二人は戻ってくるだろうし、先にベウルさんを起こしに行こう)

そう決めた私は、静かに寝室の扉を開けた…―。

月明かりを頼りに、部屋の中央にある広々としたベッドに歩み寄る。

息を潜めて覗き込むと、そこには大きな身体を丸めるようにして眠る、ベウルさんの姿があった。

ベウル「……」

穏やかな寝息を聞いていると、思わず笑みがこぼれてきた。

(ベウルさんの寝顔……可愛いな)

そっと屈み込み、顔にかかったベウルさんの髪を指先で払おうとした時…―。

バランスを崩して、思い切りベウルさんの上に倒れ込んでしまった。

ベウル「!!」

○○「ご、ごめんなさ…―!!」

すると…―。

唐突にその手を掴まれ、強い力でベッドの上に引き倒された。

○○「……!」

ベウル「……いい気持ちで寝てんのに……ったく、誰だよ?邪魔すんのは……」

(え……)

低く不機嫌な声でつぶやきながら、ベウルさんが私の上に圧し掛かってくる。

驚きながら逃れようともがけば、押さえつける手に、より強い力が込められた。

○○「い、痛い……!」

ベウル「……逃げんなよ。おれ、いま機嫌が悪い……これ以上暴れると、動けなくするぞ……」

○○「ベウルさん……!」

目の据わったベウルさんは、私のほうをまともに見てくれない。

ベウル「そうだ……おとなしくしてろ」

(一体……どうしちゃったの!?)

何がなんだかわからずに、私は体を震わせることしかできない。

ベウル「……ん?」

怯える私の首もとに顔を埋めると、ベウルさんは匂いを嗅ぐようにクンと息を吸った…―。

 

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