第4話 幽霊船と呼ばれる所以

ロッソさんの船、バレナロッサ号の航海は続く…―。

(ひと月って言ってたけど……いったいどこまで行くんだろう)

そんなことを考えていた時、船がある岬で静かに停泊した。

(ここ……どこだろう?)

辺りはしんと静まり返り、波の音だけが聴こえてくる。

(あれ? ロッソさんは?)

景色を眺めているうちに、ロッソさんがどこかへ消えていた。

〇〇「あの、ロッソさんは……」

船員1「お頭ですかい? そういや、見てねえな」

船員の方に聞いてもわからず、彼を探して岬に降り立つと…―。

〇〇「あ…―」

島の端にある崖に手を伸ばしている、ロッソさんの姿を見つけた。

(何してるんだろう? あれは……)

(花……?)

ロッソさんが手に持っていたのは、美しい白い花が重ねられた花束だった。

〇〇「ロッソさん?」

ロッソ「……!」

思わず声をかけてしまうと、ロッソさんがばつの悪そうな顔でこちらを見た。

それから短く舌打ちをする。

ロッソ「見つかっちまったか……」

ぽん、と崖に花を投げるように手向け、ロッソさんは改めて私を振り返った。

〇〇「……ごめんなさい」

ロッソ「別に、謝るこたねえけど」

ロッソさんは、諦めたように短くため息を吐いた。

ゆらりと船が波に揺れ、ロッソさんの髪が潮風に揺れる。

憂いを帯びた顔に、無理をしたような笑みが作られた。

(また……この顔)

陽気な笑顔の奥に秘められた、彼の本当の感情が知りたくて……

〇〇「あの……教えてくれませんか? そのお花は…―」

思わず、そう聞いてしまっていた。

ロッソ「……」

ロッソさんは一つ息をして、低い声色で話し始めた。

ロッソ「以前……ある嵐の晩に……この船が大破して大勢の仲間をこの場所で失った」

〇〇「え……」

ロッソ「ひどい嵐だった。舵がきかなくて、崖に船をぶつけちまって……。 何人かは生き残れたけど、俺は、あいつらを見殺しにして…―」

〇〇「見殺しだなんて……!」

ロッソ「いや、俺が皆を守らなきゃなんねえのに、あんなことになっちまった。 俺の責任だ」

自責の念をその顔いっぱいにたたえて、ロッソさんは拳をきつく握りしめる。

ロッソ「だから、俺はバレナロッサと生涯を共にする。 そう誓ってるんだ」

(そんなことが……)

まっすぐに崖を見つめるロッソさんの眼差しに、ひどく胸が締めつけられる。

〇〇「じゃあもしかして……船を新しくしないのも……」

ロッソ「ああ、あいつらとの思い出がたくさん詰まってるこの船は……。 姿こそないが、魂が乗船している。そいつを壊せば……。 今度こそ本当に、あいつらを見捨てたことになっちまう」

(そんな……)

嘆きが、その苦渋の顔に強くにじんでいる。

ロッソ「永遠に海を彷徨い続ける、ゴーストプリンス……か」

そうぽつりとつぶやいた後、彼は私の方に向き直って……

ロッソ「あながち間違いじゃねえだろ?」

陽気ににっと笑いかけてくるロッソさんのその顔に、胸がさらに苦しくなってしまう。

〇〇「あの…―」

ロッソ「ああ、巻き込んで悪いな。でもひと巡りしたら、ちゃんと降ろしてやるから。 しばらくずっと一人だったから……ちょっとはしゃいじまった」

〇〇「ロッソさん……」

ロッソさんはそれきり黙って、潮風に吹かれ始めてしまった。

(ロッソさんが仲間を思う気持ちはすごく伝わってきたけれど)

(でも……)

物悲しい鼻歌が、海の風に乗り流れていく……

言葉にできない気持ちを抱えながら、私はそっと彼の傍に寄り添った…―。

 

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