第2話 ボロボロの船

太陽の光を遮る薄暗い雲の下、突如現れた男性と、ボロボロの船…―。

驚きで何もできないままに、私は男性に船に乗せられていた。

??「悪いな、驚かせて。どうしても早く船に戻りたかったもんでな……」

男性は、赤く長い髪を揺らしながら決まりが悪そうに笑う。

その瞳は、強く深い輝きを放ちながら私を見つめていた。

ロッソ「俺はロッソ。この海賊船の船長……っつっても、幽霊船みたいなもんだけど」

〇〇「ゆ、幽霊……!?」

その言葉に、さっと血の気が引いてしまう。

ロッソ「貴様は……ああ、そうか、俺を目覚めさせたっつうことは……。 もしかして、トロイメアの姫か?」

顔をぐっと近づけられ、思わず後ずさってしまう。

〇〇「は、はい……〇〇と言います。 あの……。 生きてますよね……?」

怖々と問いかけると、ロッソさんは青白い目元を愉しげに細めた。

ロッソ「ハハッ! そうだな……幽霊船の王子、と皆は呼ぶが」

(や、やっぱり幽霊……?)

ロッソさんの言葉に、ますます顔を強張らせてしまっていると……

ロッソ「くくっ……信じたか。可愛い女だな」

〇〇「っ……!」

ロッソ「冗談だ。いい顔をして怯えるじゃねえか! 最高だ」

小さくのどの奥から出ていた忍び笑いが、やがて豪快で大きな笑い声になる。

(一瞬、本当に信じそうになっちゃった……)

まばたきを一つすると、目の前でひらりとロッソさんの服の裾が翻った。

ロッソ「さあ、出発だ! 目覚めさせてくれた礼に、船旅をプレゼントしてやるよ」

〇〇「え?」

ロッソ「甲板に出るぞ!」

〇〇「あ、あの…―」

声をかける間もなく、ロッソさんは意気揚々と歩き出した…―。

外へ出ると、先ほど空を覆っていた雲は晴れ、夕陽が甲板を静かに照らし出していた。

ロッソ「出航だ!」

ロッソさんが操舵用のハンドルを握り、高らかに声を上げる。

船員達「アイサー!」

船員の方達の返事と共に、すぐに船は動き出してしまい……帆が風をはらんで大きく膨れ上がる。

〇〇「あ、あの……!」

ロッソ「何も心配するこたねえさ。ほんのひと月もすりゃまた戻ってくる。 よーし! 面舵いっぱい……!」

〇〇「っ……!」

ぐん、と船が旋回を始める。

穴が開いてボロボロになった帆が、今にも千切れそうにバタバタとはためいた。

(ひと月って……ボロボロだけど大丈夫なのかな?)

〇〇「ロッソさん……あの、この船は大丈夫なんですか?」

ロッソ「あ? なんだってー?」

風のせいで聞こえなかったのか、ロッソさんが耳に手を当てて問い返す。

ロッソさんの大仰な手振りに合わせるように、私も大きな声を出す。

〇〇「この船! 少し壊れてるようだけど、航海を続けても大丈夫なんですか?」

ロッソ「……」

すると、不意に先ほどまでの朗らかな表情が一変して……

(ロッソさん……?)

眉根が深く寄せられたその顔が、ひどく胸をざわめかせる。

ロッソ「……俺の国は、俺の家はバレナロッサ号、この船だけだ。 心配するな。いつも俺はこの船と共に過ごしている」

悲しげな表情のまま、ロッソさんが遠くの海を見つめる。

その横顔に、それ以上言葉をかけることはできなかった…―。

 

 

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