第5話 命の時間

シュテル「……大丈夫だ。水鏡は直る。 二人の願いを叶えよう」

シュテルさんの言葉が、私の胸を揺さぶる…-。

女性「あなたが水鏡を直せるんですか……!?」

ずっと泣いていた女性が顔を上げ、すがるようにシュテルさんを見つめた。

シュテル「ああ、すぐにでも」

喜ぶ二人に向かい、シュテルさんは微笑みを浮かべて静かに頷く。

〇〇「シュテルさん……!」

シュテルさんの傍に寄り、その冷たい手にそっと触れた。

シュテル「……」

シュテルさんは私を見つめ、穏やかな微笑みを返す。

シュテル「……これでいいんだ」

(シュテルさんが二人を助けてあげたい気持ちは、痛いほどわかる)

〇〇「でも……私は嫌です」

切実に訴える声は、か細く震えてしまう。

〇〇「シュテルさんが力を使わなくても、他に何か方法が……」

シュテル「駄目だ……二人には時間がない」

(そんな……)

シュテルさんは優しく目を細め、私の頬を指の背でそっと撫でる。

シュテル「僕がそうしたいから……いいんだ」

私の悲しみすら受け入れるように、シュテルさんは優しく頷いてみせた。

シュテル「行こう」

シュテルさんは二人を伴い、もう一度神殿へと戻っていく。

(シュテルさん……)

私は胸を詰まらせながらも、その背中を追いかけた。

……

ステンドグラス越しに差し込む夕陽が、神殿の壁に柔らかな光を描き出す…-。

シュテル「……」

水鏡の前に立ったシュテルさんが、細く長い息を吐くと……

星屑が尾を引くように、煌めく流星が生まれ落ちた。

シュテル「……」

シュテルさんが流れ星に囁けば、星屑時計が輝き始め……

(あ……)

それと呼応するように、水鏡が淡い光で包まれる。

(直ったの……?)

光が消えた頃、振り返ったシュテルさんが二人を促した。

シュテル「見てみるといい」

二人「はい……!」

二人は迷うことなく、揃って水鏡を覗き込み……

男性「映った……!」

女性「それじゃ、私達は……!」

二人は顔を見合わせ、深く抱きしめ合う。

(やっぱり、二人は運命の相手だったんだ……)

二人の固い絆に胸を打たれながら、シュテルさんの横顔を見つめる。

(これで、本当によかったのかな……)

シュテルさんは、自分の寿命と引き換えに願いを叶えたことなど、少しも気に病む様子はなく……

シュテル「……」

喜ぶ二人の姿を見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。

(シュテルさん……)

星屑時計の砂が落ちる度、シュテルさんの温もりが少しずつ遠ざかるようで……

シュテル「どうした?」

〇〇「いえ……」

私はシュテルさんを近くに感じながら、切ない胸の痛みにこらえていた…-。

 

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