月7話 一番星が見える頃

幸せそうな二人の背中を見送った後…-。

シュテル「そろそろ日が暮れる……行こう」

夕焼けに染まる空を見上げ、シュテルさんがまぶしげに目を細めた。

〇〇「そうですね。神官様にも水鏡が直ったことをお伝えしないと……」

そこまで話して、はっとあることが思い当たる。

シュテル「どうした?」

先に歩き出していたシュテルさんが、肩越しに私を振り返る。

(水鏡が直ったということは……)

婚宴の儀の後、私は水鏡に祈りを捧げる役目を担っていた。

〇〇「もし、私の運命の人が儀式に参列していたら……?」

口の中でつぶやいた言葉に、シュテルさんが短く答える。

シュテル「……鏡が光って、その相手を教えるそうだ」

(儀式に出れば、私の運命が示させる…-)

そう思うと、にわかに戸惑いが浮かぶ。

(もし、その人がシュテルさんじゃなかったら……?)

想像しただけで、心に切ない影が落ちた。

(私、やっぱりシュテルさんのことが…-)

シュテル「……やはり、気になるか?」

〇〇「え……?」

シュテル「運命の相手が近くにいなければ、鏡は反応しない。 でも……君が望むなら、願いを叶えてやりたい」

シュテルさんのまっすぐな瞳に、迷いの色は見えない。

(それって、まさか……)

悲しい予感が胸を打ち、私は続く言葉を見失う。

シュテル「星屑時計の力で、君の運命の相手をここへ……」

〇〇「そ、そんな、やめてください!」

私はシュテルさんの腕を掴み、遮るように声を上げる。

〇〇「シュテルさんは勘違いをしています。私は運命の人を知りたいんじゃありません」

シュテル「〇〇……?」

〇〇「私は、ただ…-」

シュテルさんの腕をそっと解き、消え入りそうな声で告げた。

シュテル「ただ……?」

〇〇「運命の相手だったらいいなと……そう想う人がいるだけです」

私の想い人がシュテルさんだということは、つい伏せてしまう。

すると……

シュテル「そうか……」

そのつぶやきから、彼の感情は読み取れなかった。

〇〇「はい……だから、最初に鏡を見るなら、その人と一緒がいいです」

私はシュテルさんを見つめ、暗に言葉を含ませる。

けれど、シュテルさんは何も答えず……

痛みをこらえるように、すっと顔を背けた。

(シュテルさん……?)

シュテル「……少し話しすぎたようだ。 ここからは、星達の時間だ」

ふと視線を上げると、夜空に浮かぶ一番星が哀しげに瞬いていた…-。

<<月6話||月最終話>>