第3話 突然訪れた危機

貴族の男性としばらく話した後、私はもう一度神殿へと戻ってきた。

神殿の外には、他国の王子達が少しずつ集まり始めている。

その時、神殿の入り口からユーノさんがこちらに歩いてくるのが見えた。

〇〇「ユーノさん!」

呼びかけると、ユーノさんは私をまっすぐ見つめ、柔らかく微笑んだ。

ユーノ「おはようございます。今日はお越しいただきありがとうございます」

(よかった……いつも通りの、ユーノさんだ)

〇〇「おはようございます。あの、昨日のことですが…-」

その時、神殿からどよめきが起こった。

使用人1「た、大変だ! 水鏡が……」

使用人2「水鏡に、ヒビが……!!」

ユーノ「水鏡が……!?」

ユーノさんが慌てて神殿を振り返った…-。

急いで神殿の中へと駆けつけると…-。

〇〇「!」

水鏡に大きなヒビが一本走り、聖水が中から漏れ出してしまっていた。

来賓の男性「水鏡が使えないということか?」

来賓の女性「では、運命の相手も知ることができないの?」

神殿内の声に、周囲にいた王族達にも動揺が広がる。

ざわめきが徐々に大きくなり、神殿を支配していった。

〇〇「ユーノさん……。 どうしてこんなことに……?」

ユーノさんはゆっくりと私に視線を這わせ、唇を引き結ぶ。

ユーノ「これは……」

ユーノさんの言葉が、ぴたりと止まる。

〇〇「ユーノさん?」

ユーノさんの顔からは血の気が失せ、色白の肌がより透き通って見えた。

(え……!)

まるでそのまま消えてしまいそうな様子に、思わずユーノさんの手を握る。

ユーノ「……」

うつろな瞳が、私にゆっくりと向けられた。

〇〇「ユーノさん、大丈夫ですか?」

ユーノ「……失礼」

ユーノさんは我に返った様子で、慌てて私の手を離した。

ユーノ「見苦しいところを見せてしまいましたね。わたしは、大丈夫ですから。 う……っ」

祭壇へ向かおうとしたユーノさんは、頭を抱えその場にしゃがみ込んでしまう。

〇〇「ユーノさん!?」

ユーノ「う……」

ユーノさんは眉間に皺を寄せ、歯をくいしばっている。

固く握られている彼の手に、そっと触れた。

〇〇「大丈夫ですか?」

唐突に、ユーノさんが目を大きく見開き、触れた私の手を強く握りしめた。

〇〇「……っ」

その手はとても熱く、触れられた私の手首も熱を帯びてくる。

〇〇「ユーノ……さん?」

ユーノさんは、仄暗い妖しさを湛えた瞳で、まっすぐ私を見据えた。

(ユーノさんの様子が……?)

ユーノ「我は神の子ユーノ。神の代弁者である」

〇〇「え?」

(もしかして、神様がユーノさんの体に……!?)

ユーノ「水鏡を破壊したのは、ユーノの心。その心が修復されない限り、水鏡も修復されることはない」

(ユーノさんの心? それって……)

〇〇「それは……どういうことですか?」

ユーノさんの目は冷たく輝き、口元に妖しげな笑みが浮かぶ。

ユーノ「それを知りたくば……」

その時…-。

氷のようなユーノさんの表情が、不意に苦しそうに歪み始める。

ユーノ「うぅ……!」

ユーノさんの息が荒くなり、私は崩れ落ちそうな彼の体を支える。

〇〇「ユーノさん、大丈夫ですか!?」

ユーノ「わたしの言葉を……聞かないで……」

〇〇「え…-」

ユーノ「……」

ユーノさんは固く目を閉ざしたまま、その場に倒れ込んでしまった。

〇〇「だ、誰か……!」

私の声に、水鏡の周りに集まっていた使用人の方達が駆け寄ってきた。

使用人1「どうされましたか!?」

〇〇「おそらく……ユーノさんに神託が……それから、倒れてしまって」

使用人1「そうでしたか……おい、早くユーノ様をお部屋へ!」

使用人2「はい!」

ぐったりとしたユーノさんは、数人の使用人の方達に支えられ、出入り口へと向かう。

使用人1「あの……ユーノ様はなんと」

〇〇「……水鏡を破壊したのは」

使用人1「破壊したのは?」

(ユーノさんの心だと……でも、そんなこと……)

〇〇「……そこまでしか聞くことはできませんでした」

私の言葉に、使用人の方は力なく頷く。

運ばれていくユーノさんを、私は祈るような気持ちで見送った…-。

 

 

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