第1話 儀式の前日

泡沫の国・アフロス 蒼の月…―。

各国から王族が招かれる婚宴の儀に、私もトロイメアの姫として招待されていた。

神殿の中に足を踏み入れると、ステンドグラスを通して光が降り注ぎ、幻想的な光景が広がっていた。

儀式を翌日に控えた祭壇では、使用人の方達が慌ただしく動き回っている。

(きっと、ユーノさんもいるはず)

私は目を凝らし、ユーノさんの姿を探した。

ユーノさんはアフロスの王子で、神の代弁者として神からお告げを受けることができる。

善良の神と悪の神……

二人の神がユーノさんの体に宿ることで、国民や神殿の来訪者に神の言葉を伝えていた。

(神様からの言葉……いったい、ユーノさんはどんなふうに聞いているんだろう)

婚宴の儀では、ユーノさんは儀式を取り仕切る神官を務めることになっている。

(あ、いた……!)

ユーノ「儀式を執り行う順番ですが……」

ユーノさんは穏やかに微笑みながら、他の神官の方と話し込んでいた。

すらりとした背筋と、彫刻のように美しい顔立ちについ見とれてしまう。

(いつ見ても、綺麗な人……)

ふと、ユーノさん達の脇に置かれている水鏡が目に入った。

神殿に注ぎ込む太陽の光を反射させ、きらきらと揺らめいている。

(あれは何……?)

ユーノ「……!」

すると私に気づいたユーノさんが、神官の方に会釈をした後、こちらへ近づいて来た。

ユーノ「〇〇様、アフロスへようこそ」

胸に手をあて、優しく目元をほころばせる。

〇〇「お招きいただき光栄です。お忙しそうですね」

ユーノ「ようやく落ち着いてきたところです」

〇〇「あの……あの鏡のようなものはなんですか?」

ユーノさんは先ほどいた場所に目を向けた。

ユーノ「あれは……運命の相手を教えてくれる、水鏡です」

〇〇「運命の相手を……?」

ユーノ「運命の相手が近くにいれば水面が光を放ち。 水鏡の前に二人で立った時、隣にいる相手が運命の相手であれば、その姿が映し出されます。 運命の相手を知るために、訪れる方も多いんですよ」

〇〇「そうなんですね……」

(運命の人……)

その言葉が、私の心を波立たせる。

(知りたいと思うけど……)

(でも、本当にそれを知ってしまうのは、少し怖いかも)

そんなことを思いながら、隣に立つユーノさんにそっと目を向ける。

ユーノさんの透き通った瞳が、どこか悲しそうにその水鏡を見つめていた…-。

 

第2話>>