月最終話 水鏡が映すもの

ユーノ「君に、真っ先に伝えたかったのです」

笑顔を見せるユーノさんだけれど、その目はどこか冷たくて…-。

ユーノ「ご心配をおかけしました。無事に、修復されました」

〇〇「よかった……です」

(そういえば……)

―――――

ユーノ『運命の相手が近くにいれば水面が光を放ち。 水鏡の前に二人で立った時、隣にいる相手が運命の相手であれば、その姿が映し出されます』

―――――

(もしもユーノさんが運命の相手だったら、水鏡に姿が映る……)

(見るのは怖いけれど……)

心臓がトクトクと脈を打つ。

恐る恐るユーノさんの背後にある水鏡を覗き込もうとした時…-。

ユーノ「神託を、覚えていますか」

〇〇「……え?」

ユーノ「わたしの心が修復されない限り、水鏡も修復されることはないと」

〇〇「はい……覚えています」

無機質なユーノさんの声に、私の心が揺さぶられる。

ユーノ「水鏡が修復されたということは、私の心も修復されたということ」

〇〇「じゃあ、もうユーノさんの心を苦しめているものは……」

ユーノ「ええ、すべて、綺麗に取り除かれました」

〇〇「よかったです……! でもいったい何が……」

ユーノ「神のお告げに身を委ねることにしたのです」

〇〇「神……」

(確か、善良の神様と悪の神様がいたはず……)

〇〇「どちらの神様に……?」

ユーノさんは私をじっと見つめてから、目を細める。

ユーノ「悪の神です」

ほの暗い彼の瞳に、ゆらりと青白い月の光が映る。

その妖艶な笑みに、思わず言葉を呑み込んだ。

〇〇「……あの、ユーノさん、それって」

問おうとした時、ユーノさんの人差し指が私の唇に触れた。

ユーノ「……」

(ユーノ……さん?)

彼の指先の冷たさと、底冷えするような眼差しにとらえられる。

(なのに……どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう)

胸の中に疼く感情を持て余していると、優雅な香りをまとったブーケが差し出された。

ユーノ「そんな顔をしないでください」

〇〇「……これは」

ユーノ「アネモネです。君にとても似合うと思って」

〇〇「綺麗……ありがとうございます」

紫色のアネモネは気品があり、私は導かれるようにそっとブーケを手にする。

ユーノ「中庭の花壇に色とりどりのアネモネが咲いていますよ」

ユーノさんが、私の背にそっと手を添える。

ユーノ「……行きましょう」

二人で歩き出した時…―。

(え……?)

何かに呼ばれたような気がして、水鏡の方を振り返ろうとした。

けれど…―。

スチル(ネタバレ注意)

突然、背後からユーノさんに抱きすくめられた。

ふわりと神秘的な香りが漂い、めまいを覚える。

ユーノ「水鏡が気になりますか?」

ユーノさんの小さな声が、私の耳に流れ込んできて…-。

〇〇「私は……」

ユーノ「……悪の神は言いました。叶わぬ恋なら、叶うまで求めよと」

私の体を絡め取るように、ユーノさんが私を抱きしめる力を強くする。

〇〇「え?」

ユーノ「悪の神は言いました。自身の愛する者の愛する者を……葬り去ってしまえと」

ユーノさんの声が頭の中で響く度に、ドクンと心臓が打ち鳴る。

ユーノ「悪の神は言いました。そして自身の手の中に……愛する者を閉じ込めよと。 君を永遠に愛し続けるのは、わたしだけです」

〇〇「ユーノさん……っ?」

ユーノさんの腕が、さらに強く私の体に絡みつく。

〇〇「痛いです……」

けれど、ユーノさんの力は弱まるどころか、ますます私を固く繋ぎとめていく。

ユーノ「〇〇様。ご存知ですか? アネモネは、夜には花びらを閉じてしまうのです。 そんな姿も……きっと儚く美しい」

〇〇「……」

ユーノ「このまま、私と一緒に……」

彼の手に誘われるように、そっと手を重ねた。

〇〇「ユーノさん……」

体をよじり、そっと彼の顔を見上げる。

切なげに私を見下ろす表情に、胸がぎゅっと締めつけられた。

ユーノ「〇〇様……」

彼の長い指が私の顎に添えられた時…-。

〇〇「ん……」

ユーノさんの唇が、奪うように私の唇に重なる。

その甘美な心地に酔いしれながら、そっと目を閉じようとすると……

(あれは……)

ユーノさんの背後で、神々しい一本の光の筋が上がっていくのが見えたのだった…-。

 

おわり。

 

<<月5話