月7話 苦い薬と甘い看病

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楓『でもよかった。じゃあまだここにいるってことか』

○○「え……?」

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楓さんが、いたずらっぽい笑顔で私を見つめている。

(どういうこと……?)

言葉につまっていると、彼は私の枕元に腰を下ろした。

楓「はい、薬」

○○「ありがとうございます」

起き上がり薬を受け取ろうとすると、楓さんが手で制止する。

楓「何してるの。口開けて」

○○「薬くらい一人で飲めますから……」

楓「駄目。病人は甘えてればいいの」

○○「……」

楓「はい、あーん」

私は言われるがまま、小さく口を開けた。

苦い薬と、冷たい水が喉を通り過ぎていく。

○○「……ありがとうございます」

楓「どういたしまして」

薬を飲んだ後、私はもう一度横になった。

楓「もう一晩くらい寝てれば、よくなるかな?」

○○「ごめんなさい、長居してしまって」

楓「大丈夫だよ」

○○「あの……桜はまだ咲きませんか?」

楓「開花が遅れているみたいで、たぶん君が滞在している間は咲かないよ」

淡々と事実を語る楓さんを見て、小さく息が漏れた。

○○「残念です……」

楓「一週間くらい寝込んでてもいいんだよ?」

○○「え」

楓「それとも、もう一度風邪をひかせてあげようか」

楓さんが意地悪そうな笑みを浮かべて私を覗き込んだ。

○○「そんな……」

布団に横になったまま、私は微かに首を振る。

楓「冗談だよ……じゃあ、ゆっくり眠るんだよ」

○○「ありがとうございます」

楓さんは立ち上がり、静かに部屋を出て行った。

楓さんがいなくなった室内は、痛いほどの静寂に満たされていく。

(なんだか、寂しいな……)

ふと枕元に目をやると、水差しの他にもう一つ、瓶に入れられた水が置かれていた。

(これは……?)

透明の水は、ほんの少し濁っているように見える。

(もしかしてこれ、絵を描くためのお水……?)

(それなら、楓さんが忘れていったのかも)

(きっと、ないと困るものだよね……)

私はゆっくりと体を起こした後、瓶を手に取る。

……

薄暗い廊下は、青白い月明かりにぼんやりと照らされていた。

そっと足を進める度、廊下の冷たさがひやりと足元を伝う。

(楓さんのお部屋は、確かこの辺り……)

襖から漏れる明かりに、足を止めた。

○○「楓さん……」

声がかすれているせいか、中からの反応はない。

そっと、襖の隙間から中を確認すると、わずかに楓さんの横顔が見えた。

楓「……」

○○「!」

その表情に、襖を開きかけた手が思わず止まってしまった…―。

 

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