第5話 狙われる結界

私をからかっていたかと思えば、不意に煌牙様の表情が険しいものになった。

どこを見るでもなく、至極真剣な表情で何かを探っているようだ。

◯◯「……大丈夫ですか?」

煌牙「うむ……」

どこか神経を尖らせた様子で、視線を鋭いままにお茶をすする。

(あ、そういえばお茶がなくなって……)

◯◯「私、またお茶を淹れますね」

と、立ち上がりかけた瞬間……

煌牙「待つのじゃ!」

◯◯「っ!」

鋭い声音で引き止められた。

(何が……あったの?)

あまりに深刻な様子に、驚きを隠せずにいると……

廊下から複数の足音が、慌てた様子で近づいてきた。

従者1「煌牙様!ご歓談中に失礼します」

煌牙「良い、入れ」

煌牙様が返事をすると、すぐに従者の方が数名頭を垂れて姿を現す。

従者2「煌牙様、結界に異変が……裏門になります。ご確認をお願いできますでしょうか」

(結界……?)

煌牙「そうか……いまだ、破られてはおらぬようだが、ちと強引な輩よのう……。 参る」

煌牙様が、すっと立ち上がる。

煌牙「◯◯。ちとすまぬ、賊がやってきたようだ。 危ないゆえ、おぬしはこの部屋で待つが良い」

◯◯「……!」

(賊って……)

◯◯「あの……!煌牙様は大丈夫ですか……?」

煌牙「わしか?」

意外そうに、大きな瞳が瞬く。

◯◯「はい、賊だなんて……」

煌牙「くくっ……わしは大丈夫に決まっておる」

煌牙様の瞳がすがめられ、さも面白いものでも見たかのように弧を描いた。

煌牙「とにかく、おぬしもここなら安全じゃ」

◯◯「……ありがとうございます。でも……邪魔にならないようにしますので、どうか一緒に連れて行っていただけないでしょうか?」

煌牙「何?おぬしを共に?」

◯◯「はい……」

煌牙様は、しばし驚きに目をしばたたかせていたけれど……

やがて、ふっと愛らしい顔に笑みを広げた。

煌牙「そうじゃな。一人で待つのは心細かろう。 よし、ついて参れ」

◯◯「……!ありがとうございます」

煌牙様と一緒に、裏門へ向かうため城を出ると、見上げれば太陽は煌めいているというのに、雨脚は先ほどよりも随分強くなっていた。

その状況のせいもあるのか、城下は慌ただしく、胸に不安が過ぎる。

◯◯「煌牙様……」

煌牙様にそっと傘を差し掛け、邪魔にならないよう寄り添った。

すると煌牙様は、しっかりと私の目を見つめ……

煌牙「心配するでないぞ。わしがついておるからな」

力強い笑みが、私の不安を和らげてくれたのだった…━。

 

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