第4話 お手のもの

開け放たれた襖から、湿気を帯びながらも清々しい風が吹き込んでくる。

煌牙様は、3つめの大福に手を伸ばしながら私に問いかけた。

煌牙「わしの話よりおぬしの話じゃ。ほれ、何か面白い話を聞かせぬか」

好奇に目を輝かせながら、大福を幸せそうに頬張った。

◯◯「面白い話……ですか……」

煌牙「そうじゃ。何でも良いぞ! 好きな遊びはなんぞ?好物はなんじゃ?おぬしの失敗談でも良い!」

◯◯「え、えっと……あの……急に言われるとわからなくなって……」

煌牙「くくっ、そうか。分からぬか!」

◯◯「……?」

煌牙様が、どこか愉しげに声を上げた。

煌牙「くくっ、先ほどの意趣返しじゃ。 困っているおぬしも、なかなか初いのう……」

◯◯「っ……!」

ゆるりと目を細めて、ついと煌牙様が身を寄せる。

可愛いらしくもどこか色香の漂う様子にどきりとして……

◯◯「あっ、あの、やっぱり煌牙様のお話をもっと聞かせてください」

煌牙「おお?そうくるか。 そう言うならば、答えるのも悪くない。何でも聞くが良いぞ」

煌牙様は、再び座布団の上に座り直すと、緩く微笑んだ。

◯◯「それでは、あの……」

(やっぱり、煌牙様のことをいろいろ知りたいな……)

◯◯「弟さんがいらっしゃると聞きましたが……今日はいらっしゃらないんですか?」

煌牙「おお、砕牙か。あやつは外向きの政を担当しておるでな、留守が多いのじゃ。 その代わりにわしは、内向きを担当するせいか、滅多に外に出ぬ。 珍しい出かけた折に、ユメクイに襲われ……やっておれんぞ」

憤慨した様子で、煌牙様は小さく鼻を鳴らした。

◯◯「そうだったのですね。ご無事でよかったです」

煌牙「やはり外は出ないに限る。出れば、子ども扱いもされるし……まったくもって不快じゃ」

(確かに……見た目だけなら、とっても可愛くて……)

納得してしまっていると、じろりと煌牙様に睨まれてしまった。

◯◯「ご、ごめんなさい……!」

煌牙「おぬし、またわしのことを、子どもじゃと……」

煌牙様は不意に膝立ちになり、すっと私へ近寄ると……

◯◯「っ……!」

ひたりと小さな手が、私の頬へ当てられた。

そのまま顔をゆっくりと近づけられたかと思えば、耳元で……

煌牙「……子どもではない。ねやごとも、お手のもの……だからの」

(ねやごと……?)

先ほどまでよりも、低く甘い声が鼓膜を震わせて……ぞくぞくと背筋が震えた。

不意にまとった彼の大人の気配が、やはり私の鼓動を速めさせる。

◯◯「……」

恥ずかしさと動揺で何も言えずにいると……

煌牙「ふふっ、初いのう……」

笑いの吐息が耳にかかり、びくりと震えてしまった。

煌牙「知らぬようじゃから教えてやろう。 ねやごととは、つまり……」

つつ、と……頬に当てられた手が首筋を滑り……

(っ……!も、もしかして)

◯◯「わ、わかりました……!」

慌ててその手を止めるように、声に出した。

煌牙様の手がぴたりと止まり、目の前で可愛らしい顔に妖艶な笑みが浮かぶ。

煌牙「ふふっ、分からぬまま事を進めても面白かったが……」

◯◯「っ……!」

煌牙「初いのう……」

煌牙様は楽しげにつぶやきながら、座布団に戻っていく。

恥ずかしくて顔が上げられず、ちらりとだけ煌牙様を見ると……

煌牙「ん?どうしたのじゃ?」

楽しげに微笑まれてしまう。

けれど……

煌牙「……!」

その直後、煌牙様の表情から笑みが消え、真剣な色を漂わせたのだった…━。

 

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