太陽9話 どうしても

賊が逃げたと知らされた翌朝のこと…ー。

まだ夜も明けやらぬ時刻、まどろんでいると……

◯◯「っ……!」

賊1「声を上げるな」

すっと首筋に冷たいものを押し当てられて、一瞬にして目が覚めた。

(こ、この人……以前のあの賊!?)

驚きながらも見れば、あの日の賊が私を見下ろしており、

部屋の前にいたはずの見張りの人達が倒れている。

(ど、どうしよう……怖い!)

賊1「運がいい。薬を狙って来たが、大層な拾い物だ」

賊2「くくっ、おとなしくついてこいよ。秘薬よりもお前を攫ったほうが価値があることに気づいたからな」

◯◯「……」

刃物の感覚に身がすくみ、どうすることもできずにいた時…ー。

煌牙「不届きな気配がすると思えば、ここか!」

(煌牙さん……!)

現れた煌牙さんの顔つきには、私に見せてくれた可愛らしい面影はかけらもなかった。

目の前の賊に向ける煌牙さんの瞳は、恐ろしいほどの鋭さをたたえている。

賊1「もっ、もう嗅ぎつけてきやがった……!」

賊2「っく……」

煌牙「容赦はせんぞ!成敗いたす!」

怒りに燃える眼が、ぎらりと揺れた瞬間……

煌牙さんの両手から、黄金の炎が生まれる。

その炎があっと言う間に二人を包んだかと思えば……

賊1「ぎゃあっ……!」

暴れ狂う黄金の狐のように炎は舞い、ゆらりと鎮火する。

賊2「ひっ……」

煌牙「ぬしら……秘薬を狙うに飽き足らず、◯◯までも……」

煌牙さんの唇が、冷酷に歪む。

(いけない……!)

煌牙「命、惜しくないということか……!」

煌牙さんが賊達に向かって、勢いよく手を振り上げた。

◯◯「待ってください……!」

声を上げると、煌牙さんは手の動きをぴたりと止め、怒りに震える顔のまま私に視線を投げた。

煌牙「何じゃ……」

◯◯「……駄目です。このまま、煌牙さんの手を汚してしまうことは……」

煌牙「汚す……?」

◯◯「はい、お願いです。殺生だけは……」

死にていになり震える賊達を、煌牙さんはじっと見下ろした。

それから……

煌牙「誰かおらぬか!賊を捕らえた……!」

◯◯「煌牙さん……!」

考え直してくれた煌牙さんに、安堵のため息がこぼれる。

その後賊は、国外追放となり、罪人として賊の出自国へ引き渡すこととなった。

……

それら一連の手続きを終えた煌牙さんが、やや呆れた顔をして私を見つめる。

煌牙「おぬしの優しき心に、救われたのだな、あいつらは」

その顔にはまだ幾分、怒りも残っているように感じられる。

◯◯「どうしても嫌だったので……」

煌牙「うむ、しかし……おぬし、わしのこの姿で誤解しておるのだろうが……長きにわたってこの国を守ってきたのだ。長として成敗すべきものは成敗し、排除してきた。 汚れているというのであれば、とっくに汚れておるのだがのう」

◯◯「っ……!」

いつか私がしたように、今度は煌牙さんが私の頭を静かに撫でる。

(きっと、そうなんだろうとは思う……けど)

先ほどの煌牙さんの厳しい表情を思い出すと、胸がどうしようもなく痛んだ。

◯◯「それでも……嫌です」

近づいた距離はどこか甘酸っぱく……言葉にならない気持ちが湧き上がった。

煌牙「おぬしは本当にどこまでも……純粋なのだな」

小さな掌の温かさと、吐息の絡みそうな近い距離に、

とくとくと鼓動が速まるのを止められずにいた…ー。

 

<<太陽8話||太陽最終話>>