第2話 3度目のイラ様

霧が立ちこめる街に、鳥の鳴き声がこだましている…-。

〇〇「あの高い塔は何ですか? すごく綺麗ですね」

周囲の大勢のおつきの方に囲まれてイラさんに街を案内してもらっていると、一番高い塔を見つけた。

イラ「……ああ、あれか。 あれは……学校みたいなものかな。僕も、たまに教えてるんだよ」

〇〇「イラさん、先生なんですか?」

驚いて尋ねると、イラさんは肩をすくめる。

イラ「先生なんて、そんなに立派なものじゃないよ。 うちの国、天の国の罪人の流刑地だってことは知ってるよね?」

〇〇「はい」

イラ「そう。あの塔は、その受刑者達が勉強したり働く訓練をしたりしている場所なんだよ。 僕はそこに、彼らが更生の一環として講義をしに行くことがあるんだ」

〇〇「そうなんですね。道徳と、そういった内容でしょうか?」

イラ「まあ、何でもかな。けど、具体的に授業をするわけじゃなく、本当に雑談をしに行く感じだよ。 だから、先生なんて立派なものじゃない。僕の方が彼らから学ぶ事が多いくらいだよ」

イラさんは、そう言うと目を伏せる。

イラ「……それに。 本当は僕が牢に繋がれてた方がいいくらいだ。あそこでは、すべてを律するルールがあるから」

〇〇「え……?」

イラ「な~んて」

イラさんは茶化すように笑い、鼻歌を歌いはじめた。

(聞き間違いかな……?)

〇〇「えっと……王子様のお仕事をしながら授業もしてるなんて、大変じゃないですか?」

イラ「いや、城にいるより気が晴れるよ? そうだ、今日は丁度、講義があるけど見学してみる?」

〇〇「楽しそうです! 是非お邪魔させてください」

イラ「そんなに楽しいものでもないと思うけど……君の望みなら喜んで」

こうして私は、イラさんの講義を見学することになった。

……

そうして、イラさんと塔を訪れて……

イラ「じゃ、席に着いて。講義を始めるよ」

四方を護衛の方に囲まれて、私も後ろの方の席に着く。

受刑者1「イラ様、彼女ですか~羨ましいな~」

受刑者2「お~お、今日はオシャレじゃないですか~」

イラ「なんだ、褒めてくれるなんて珍しいな」

荒っぽい言葉で受刑者達にからかわれても、イラさんはにこやかに答えている。

(本当に穏やかな人だな……)

イラ「じゃあ、今日の話は…-」

受刑者3「後ろの彼女のことがいいです!!」

受刑者達は、ニヤニヤと私を見つめている。

(少し、怖いかも……)

受刑者4「か~わい。真っ赤になっちゃって~。こんな子とボクもつきあいたいなあ~」

刺すような視線を避けて、ちぢこまっていると……

イラ「冗談はそこまで。彼女は僕の大切な客人なんだ」

イラさんが、よく通る声で注意をしてくれた。

受刑者5「肌も柔らかそうだな。食べちまいたいぜ」

(私、講義の邪魔になってる……?)

〇〇「私は、大丈夫ですから」

それでも騒ぎは治まらず、イラさんは机を小さく叩いた。

イラ「静かにと言ったのが聞こえませんでしたか? 耳はどこについてるんです?」

(イラさん……?)

イラさんは、冷ややかな笑みを浮かべている。

(なんだか、さっきと様子が違うような……)

執事「イラ様、どうかお静まりを……」

どこか怯えたような執事さんの様子に、護衛の方々もソワソワと身を震わせはじめた。

(どうしたんだろう……?)

受刑者1「彼女、初キスはいつ~?」

なおも、騒ぎはおさまる気配を見せなかった。

すると…-。

イラ「……ええ、よくわかりました。役に立たない耳ならば削ぎ落してしまいましょう」

〇〇「!?」

イラさんの口調は穏やかなのに、声は先ほどまでよりも良く通り、笑みは氷のように冷たい。

受刑者2「イ、イラ様、冗談キツイっすよ」

イラ「護衛のどなたか、耳を削ぐのに丁度良いナイフをお持ち願えますか? ああ。ついでに口も縫いつけてしまいましょう。彼女の耳を汚す言葉しか紡げないようですから」

(イラさん……?)

場は、イラさんの発する冷気のような怒りに静まり返っている。

護衛「3度目のイラ様だ……」

(3度目のイラ様……?)

護衛の方がこぼした言葉が、頭の奥で何度もこだましていた…-。

 

 

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