広いアトラクションの中、グレアム君とはぐれ一人たたずむ…―。
(どうしよう。やっとここまでたどり着いたのに……)
残された謎は、時限式のパズルだけ…―。
(早くしないと……)
刻一刻と少なくなる残り時間が、さらに私を焦らせる。
(……グレアム君もここまで支えてくれたし、頑張ってみよう)
深呼吸をして、私はパズルと向き合った…―。
…
……
(駄目だ。全然解けない……!)
残り時間はもう僅かになり、動揺で手が震えてきてしまう。
(何か、ヒントは……)
藁にもすがる思いで持ち物を探っていると、グレアム君からもらったキャンディーが目に入った。
(あ……)
キャンディーをよく見てみると、包み紙に謎の記号が描かれている。
○○「もしかして、パズルを解くためのヒント?」
―――――
グレアム『ん……行くよ』
―――――
思い返されたのは、少し恥ずかしそうにキャンディーを差し出してくれたグレアム君のことで……
後で食べろとでも言いたげに、私の手に無理矢理キャンディーを握らせてくれた。
(きっとこれだ……!)
なぜだかそう確信できて、キャンディーの暗号とパズルとを照らし合わせて解いていく。
カウントダウンの音が、次第に大きくなっていく中…―。
○○「できた!!」
カチリとパズルがはまった音が響き、喜びの声を上げる。
すると、ぱっと目の前が開けて、洞窟内に光が差し込んだ。
(よかった……)
ほっと息を吐き、アトラクションの出口へ向かうと…―。
グレアム「○○!」
○○「っ……!?」
すでに出口にいたグレアム君が私に駆け寄り、きつく抱きしめた。
グレアム「どうなることかと心配したよ!」
感極まった様子のグレアム君が、いつもより大きな声を上げる。
(グレアム君……こんなに心配してくれてたんだ)
グレアム「だけど、二人とも脱出できて本当によかった」
○○「アトラクションなのに……本当に焦っちゃいました」
グレアム君の背中に、私もゆっくりと手を回した。
彼の香りに包まれると、疲れが一気に吹き飛んでいく。
グレアム「それはそうだろう……なんたって俺の作品のアトラクション、臨場感には拘っている。だからこそ……お前のことが心配で」
声を詰まらせる彼の背を、私はゆっくりと撫でた。
○○「ちゃんと脱出できたから、これでグレアム君の書き下ろしが読めますよね」
グレアム「もちろんだよ。 それより……怖くなかった?」
○○「それは……」
ほんの少しの時間離れていただけなのに……
グレアム君はまるで長い間離ればなれだったみたいに、きつく抱きしめたままだ。
グレアム「最後の最後で、守ってあげられなくてごめん……」
ふと、グレアム君の声音が悲しげなって……きゅっと胸が苦しくなった。
○○「いいえ。グレアム君のキャンディーのおかげで脱出することができたんですよ。 だから……グレアム君に、守ってもらったようなもんで…―」
気恥ずかしさを感じながらも、私は彼にそう伝える。
グレアム「本当……?」
グレアム君が、抱きしめる腕の力を緩めた。
彼の瞳は、落ち込んだように伏せられたまま……
○○「……本当です。 最後、パズルが解けなくて……あそこでグレアム君のキャンディーがなければ無理でした」
グレアム「じゃあ……」
ゆっくりと、グレアム君の視線が私に戻ってくる。
グレアム君の表情が、次第に笑顔になって……
グレアム「ここまでヒントを出さなくてもと思ったけれど。 そのおかげでこうして喜びの再会ができたということだね」
○○「はい、その通りです」
しっかりと頷いた瞬間…―。
○○「っ……!」
グレアム「謎解きアトラクション成功だ!」
グレアム君がまたぐっと私を抱き寄せて、嬉しそうに声を上げた。
(なんだか恥ずかしいけど……嬉しい)
私にいろんなドキドキをくれた、グレアム君と、彼のアトラクション……
(予想外のことばかりだったけれど)
それでもグレアム君がいれば、なんだって大丈夫だと思える。
私達の今日の一日を労うように、パーク内を夕陽が柔らかに包み込んでいた…―。
おわり。