月最終話 彼の後悔

魔術の祭典が終わり、夜空に星々が瞬く頃…-。

○○「イリアさん、突然ごめんなさい」

イリア「大丈夫ですよ。だけど、いったいどうしたんですか?」

部屋に訪れた私を招き入れてくれたイリアさんが優しく微笑む。

けれどその笑顔は、闘技場を後にした時と同じように弱々しくて……

(やっぱり、元気がない……)

○○「イリアさん」

私は彼の前に立つと、その端正な顔に手を添えた。

イリア「○○様……?」

○○「教えてください。イリアさんが何を思っているのか」

イリア「……っ」

わずかに驚いたような表情を浮かべたイリアさんだったものの、少しの後、ゆっくりと私の手の上に自分の手を重ねた。

イリア「……ミヤが失敗するかもと思った時、私はとっさに魔術を使ってしまいました。 考える前に体が動いてしまっていたのです」

―――――

イリア『ミヤ!』

―――――

(あの時……)

イリア「魔術の祭典は大成功だとしても、あれではミヤの顔に泥を塗ってしまう……。 ミヤは一人で頑張ろうと、あれほど練習していたのに……」

森に行く前に、廊下で立ち尽くしていたイリアさんの姿を思い出す。

(イリアさんは、ミヤさんをあれほど見守っていたのに……)

イリア「勝手なことをしてしまって、ミヤは怒っているかもしれません」

○○「イリアさん……」

彼の心の脆さに触れて、胸が締めつけられる。

○○「……もし、ミヤさんが怒っているのなら私も一緒に謝ります」

イリア「○○様が?」

○○「はい。だから自分を責めないでください……! ミヤさんのことを思ってしたことだって、きっとわかってくれます!」

イリア「○○様……。 ……貴方が一緒に謝ったら、ミヤはすごく驚きそうです」

○○「あ……確かに。突然私が謝っても混乱させてしまいますよね」

(私、何を言ってるんだろう……)

自己嫌悪から、思わずうつむいてしまう。

けれど……

イリア「ありがとうございます……○○様」

○○「え……?」

思いがけない言葉が聞こえ、顔を上げると…―。

イリアさんはため息が漏れるほど美しい笑顔で微笑んでいた。

○○「っ……!」

イリア「貴方のおかげで、落ち着きました」

(どうしてだろう……イリアさんの顔が上手に見られない……)

その時…―。

イリア「おや? あれは……?」

何かに気づいた様子のイリアさんが、机の方へと向かう。

そこには、メッセージカードが置かれていて……

『いいところ持っていき過ぎ! でも、ありがとう』

イリア「!」

イリアさんが手に取ったカードには差出人が書かれていなかったものの…-。

○○「イリアさん、これって……」

イリア「はい……ミヤからです」

イリアさんは嬉しそうに眼を細め、カードを見つめる。

そして……

イリア「○○様!」

○○「っ……!」

イリアさんはカードを大切そうにしまった後、私を引き寄せた。

スチル(ネタバレ注意)

イリア「貴方の言う通りでした。ミヤはわかってくれていました!」

○○「よかったですね……イリアさん」

伝わる彼の体温に騒ぐ鼓動を抑えながら、返事をする。

イリア「はい。貴方のおかげです」

○○「私は何も……」

イリア「いいえ。貴方がいてくれたから私は……」

○○「イリアさん……」

彼の腕に力がこもる。

力強い腕に抱かれて、胸がより一層高鳴った。

イリア「覚えていますか? 昨日貴方が言ってくれたことを。 貴方は私を励ましてくれた。そして、私の心の内を教えてくれた……」

○○「そんな……大袈裟ですよ」

イリア「いいえ……。 貴方は不思議な人ですね。私が隠そうとしていた心にすぐに気づいてしまう。 私の心を解きほぐして、素直に向き合えるようにしてくれた。 そして、いつの間にか貴方は私の心の中にいる」

イリアさんはわずかに体を離すと、私の両頬を優しく包み込んだ。

○○「え……?」

(心の中にいる……?)

私はイリアさんを見上げる。

その時、彼の顔が近づき……私の額にキスが落とされた。

○○「っ……!」

イリア「この想いには、まだ気づかないでください。 いつか改めて、私から言いますから」

○○「イリアさん……」

彼に見つめられ、私はまるで操られているかのように頷く。

(イリアさんの想い……)

彼がいつかその想いを伝えてくれる日を、待ち遠しく感じながら…―。

 

おわり。

 

<<月5話||月SS>>