第3話 ひと時の微笑み

穏やかな昼下がり…ー。

穏やかな風が時折、ハクさんの薄茶色の長い髪を揺らしている…ー。

風の音が際立つほどに静かなまま、アフタヌーンティーは続いていた。

ハク「……」

○○「……」

(会話が止まってしまう……)

お互いが好きな本についての話題を最後に、また沈黙が訪れていた。

なんとなく気まずさを感じて、テーブルに視線を落とすと……

(……あれ?)

ハクさんが、私の作ったクッキーを全部食べてくれていた。

○○「……」

おいしかったですか、と聞きたかったけれど…ー。

ハク「……」

ハクさんは無言で席を立ち、そのまま城の中へ入っていった。

(全部、食べてくれた……)

胸にふわりと温かい気持ちが広がっていく。

私はしばらくの間、空っぽになったお皿を見つめていた…ー。

翌日…ー。

今日も空は晴れていて、静かに太陽の光が降り注いでいる。

(気持ちいい風……)

風に頬を撫でられながら、中庭を散歩していると、黄色の花びらをつけたお花が、太陽の光を受けて鮮やかに咲いていた。

(綺麗なお花……)

その時、上から誰かの視線が落とされていることを感じる。

見上げるとそこには……

ハク「……」

○○「ハクさん……!」

ハクさんは昨日と変わらず、無表情で私をじっと見つめている。

○○「あの……ハクさん……?」

ハク「……その花。 その花が、どうかしたのか」

○○「あっ……はい! 綺麗なお花だなって思って……」

ハクさんが口を開いてくれたことに驚いて、声が裏返る。

ハク「きれい……なのか?」

ハクさんの表情は変わらないままだけど、眉がぴくりと動いたのが見えた。

○○「とても綺麗な色だなって……そう、思いませんか?」

ハク「俺にはわからない」

そうつぶやくと、彼はおもむろにどこかへ歩き出そうとした。

○○「あのっ……」

ハク「何だ」

(思わず呼び止めてしまったけど……どうしよう)

ハク「……」

彼は、私をじっと見つめながら立ち止まっている。

ハク「その花を見ると、嬉しいのか」

○○「えっ……」

ハク「嬉しそうに見ていただろう」

(なんだか……恥ずかしい)

ハク「……ついて来い」

そう言うと、彼はまた静かに歩き出した。

○○「えっ……はいっ……!」

思いがけない言葉に、私も立ち上がって、彼の大きな背中を追った……

ハクさんに連れられ、城の裏手にある草原にたどりつくと…ー。

○○「すごい……綺麗……!」

先ほどのお花が一面に咲き誇り、辺りはまばゆいばかりの黄色に染め上げられていた。

ハク「……きれい……」

目を輝かせる私を見ながら、ハクさんは首を傾げている。

その様子がなんだか可愛くて、頬が思わず緩んでしまった。

その時…ー。

○○「あ……」

少し離れたところから、一羽のうさぎが私達をじっと見ている。

○○「ハクさん、うさぎですよ! かわいい……!」

ハク「……」

近づいても逃げる気配はなく、私はそのうさぎを抱き上げた。

○○「あっ……」

そこで初めて、うさぎが前脚に傷を負っていることに気づく。

○○「かわいそう、怪我をしてしまって……野犬か何かに襲われたのかな……」

ハク「……かわいそう?」

私とうさぎのところにゆっくりと近づいて来たハクさんが、首を傾げた。

ハク「お前は今、何を考えている?」

○○「えっ……。 ……うさぎがかわいそうで、悲しいです」

ハク「かなしい……」

しばらく何かを考え込んだ後、ハクさんはうさぎを私から取り上げた。

ハク「お前の言葉は……抽象的な表現ばかりでわかりにくいが。 城で、手当てをすればいいのだろう?」

(ハクさん……)

○○「はい!」

ハクさんの細くてしなやかな腕に抱かれたうさぎが、お礼をするように頭をすり寄せる。

ハク「……」

ハクさんは、不思議そうな顔をしながらうさぎの背を撫でた。

○○「かわいいですね」

ハク「かわいい……」

(あっ……)

ハクさんが、ほんの一時優しく目を細める。

ハク「そうか、これがかわいいか」

(今、笑った……?)

初めて見たハクさんの笑顔に、嬉しさで胸がいっぱいになる。

気がつくと、私も自然に笑顔になっていた…ー。

 

 

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