月7話 秘められた激しさ

ハクさんの瞳が、鋭い光を帯びている……

(どうしたんだろう……)

○○「あの……」

声をかけようとすると、うさぎがハクさんの足の周りを飛び跳ねる。

すると、うさぎに向けられた彼の視線から鋭さが消えていった。

ハク「……」

○○「もうすっかり治ったみたいですね。 そうだ、この子を森へ帰してあげませんか? 森なら、きっとこの子の仲間もいると思いますし」

ハク「森……」

私の提案に、ハクさんが少し表情を曇らせたように思えた。

ハク「森は、また盗賊が現れるかもしれない。危険、だ……。 あの男……お前を見て、笑っていた……」

盗賊の男が去り際に私に見せた、不敵な笑みを思い出す。

(気づいてたんだ……)

その時、私はハクさんの体が小刻みに震えていることに気づいた。

○○「ハクさん……?」

ハク「お前があいつらに何かされたらと思うと……。 胸の奥が、黒いものに支配されていくような気がする」

ハクさんは私に向き直り、低く重い声で言葉を発した。

(……っ)

ハクさんの瞳に、今度は戸惑いが映し出されていく……

ハク「これは……何なんだ? 教えてくれ……!」

○○「ハクさん……っ!?」

戸惑いながら私の肩を掴むハクさんのあまりの力強さに、思わず声が出てしまう。

○○「……っ」

(ハクさんが、少し怖い……)

その時……うさぎが無邪気に私達の周りを飛び回った。

ハク「……」

ハクさんから、少しずつ怒気が薄れていく。

ハク「……お前がそうしたいなら、うさぎは森へ帰そう。だが……。 お前を傷つける奴は、俺が許さない」

冷徹な響きを含んだハクさんの声が、耳に残って離れなかった……

その翌日…ー。

ハクさんと私は、森へうさぎを帰しに来ていた。

○○「元気でね」

ハクさんが抱いているうさぎをそっと降ろすと……

うさぎは元気よく私達の周りを飛び跳ねて、森の中へと帰って行った。

○○「よかったですね……」

ハク「……よかった、か」

ハクさんは、うさぎが駆けて行った方向を静かに見つめていた。

(昨日のハクさんはちょっと怖かったけど……)

穏やかなハクさんの瞳に、ほっと胸を撫で下ろす。

その時…ー。

ガサリ、と不自然な物音が静寂を破る。

○○「……っ」

物音がした方に、なぜだか嫌な気配を感じて……

○○「ハクさん……」

思わず、ハクさんの服を掴んでしまう。

ハク「……大丈夫だ」

ハクさんは、私を安心させるように優しく抱き寄せてくれる。

ハク「出てこい」

○○「……!」

ハクさんの声に、木の影から見覚えのある一人の男が姿を現す。

盗賊1「なんだ。バレてたか」

○○「……っ!」

それはこの間、森で私達を襲ってきた男だった。

盗賊1「一人じゃかなわねぇからな。今日は、仲間を連れてきた」

気がつくと、複数人の男達がいつの間にか私達を囲んでいた。

(どうしよう……)

ハク「……」

ハクさんを見上げると、彼は驚くほど静かに男達を見据えていた。

その瞳の色は、昨日見たあの鋭さを暗くたたえていた…ー。

 

 

<<月6話||月最終話>>