城下町を抜けて、城に着く頃には、すでに夜が始まろうとしていた。
しかしかろうじて空にはまだ太陽の名残りがある。
レオニー「だ、大丈夫だよな!? 何もいないよな?」
〇〇「う、うん……」
先ほどからレオニーは、ずっと私の傍を離れようとしない。
私の手を両手で力強く握っている……
(それにしても不気味な城……誰もいないのかな?)
(今日は一晩、レオニーとここで過ごすことになるのかな……)
胸の奥が騒ぐ……
肩をすくませるレオニーの横顔を、そっと横から見上げた。
レオニー「……うぅ……勇気さえ失くさなければ……こんなの、どうってことないのに……」
誰にも伝えるでもなく彼の口から漏れたつぶやきに……
〇〇「今のってどういう意味?」
―――――
レオニー『……くそう……勇気さえあれば……』
―――――
(そういえば、街の人達に囲まれていた時も言っていたような……)
レオニー「…………」
〇〇「レオニー、教えて?」
押し黙ってしまったレオニーに、もう一度問いかける。
レオニーは数秒ほど、下を向いていたかと思うと、やがて口を開き始めた。
レオニー「この虹の国を治めるオズワルドって知ってるか?」
〇〇「オズワルド……さん?」
曖昧な返事をすると、彼はそのまま話を続ける。
レオニー「オレは、オズワルドに昔もらった勇気を、失くしたんだ……そのせいでこんな腑抜けになって。 だからもう一度、勇気さえ見つければ、オレは、またなんだってできるようになるはずなんだ……!」
いつも自信のなさそうな声がその時ばかりは大きくなる。
〇〇「勇気を失くしたって、どうして?」
レオニー「きっと……ユメクイに食われた拍子に、どっかに落とした、とか?」
いまいちはっきりしない彼の答えに……
〇〇「勇気って落とせるものじゃないと思うけど……」
レオニー「そんなはずない……! だってもらえるものなら、落とすことだってあるだろ!? だからオレは、もう一回、オズワルドに会って、勇気をもらうんだ! それさえあれば、オレはなんだってできるはずなんだ……! 昔、この領の皆が、オレのことを認めてくれたみたいに、きっと…-」
ぐっと何かに耐えるように、レオニーは拳を作る。
レオニー「そう、勇気があれば、なんでもできるんだっ! そうだろ!?」
〇〇「……」
まるで誰かにすがるような瞳で、レオニーが私に問いかける。
(うまく言えないけど、間違っている気がする……)
レオニー「……違う、のか?」
〇〇「レオニー、それは…-」
レオニーがあまりに寂しそうな顔をするので、口を開いたその時だった。
不快な音が廊下に響くーー。
レオニー「ひいっ!?」
〇〇「……!」
レオニーが私の腰に飛びつく。
〇〇「今の音は!? 待ってて、今、様子を見てくる」
レオニー「ま……待て! オレを一人にすんじゃねえーっ!!」
背中に追いすがる声をそのままに、私は音がした方へ走り出す。
逢魔が時の城に、足音だけが高く響くのだった…-。