太陽最終話 心に届く技術を

空には相変わらず、暗く厚い雲がかかったまま…一。

オズワルド「ふむふむ。では最後の仕上げといこうかね」

しばらく機械をいじっていたオズワルドさんが、ぽつりとつぶやいた。

オズワルド「そろそろ例のものが到着する頃合いじゃあないかな」

◯◯「……?」

思わせぶりな言葉に首を傾げていると、上空から何やらエンジン音が聞こえてきて……

(何……この音……)

見上げると、小型飛行機が降りてくるところだった。

◯◯「オズワルドさん、あれって……飛行機ですか!?」

オズワルド「無人飛行機だね、人は乗ってないよ。 これから、無人飛行機を飛ばして、雨雲を霧散させる液体を噴射させる。 それにより、これまで次第に薄くなるよう小細工した雨雲は、一気に木っ端みじんってわけ!」

◯◯「薄くなるように細工?」

オズワルド「ふっふっふー、内緒♪」

意気揚々と言いながら、オズワルドさんは風を巻き上げながら着地した飛行機に液体を設置し始めた。

(雨雲を追い払うなんて……)

(やっぱり、皆に魔法使いだって言われてもおかしくないくらいすごい)

オズワルド「はーい、オッケー。いってらっしゃーい♪」

設置を終えた無人飛行機が、また空高く舞い上がる。

オズワルドさんと二人、しばらく空を見上げていると、遠く破裂音のような音が響いた。

オズワルド「ひゅうっ! ひとまず成功だね!」

オズワルドさんの声が、いつしか薄くなっていた雨雲が浮かぶ空へと響いた…ー。

……

そしてついに、感謝祭当日…ー。

昨日までの雨が嘘のように、空は晴れ渡っていた。

◯◯「すごいです…… ! オズワルドさん」

オズワルド「これが本当の大成功だねぇ…… ! さあおいで! ◯◯ちゃん」

◯◯「あっ……」

私をぐっと強引に引き寄せ、オズワルドさんは飛び乗るようにして、完成した山車の上へ駆け上がる。

その瞬間、ファンファーレが盛大に響き始めた。

オズワルド「感謝祭の始まりだよ!」

感謝祭に集まった国の人々から、わぁっと歓声が上がる。

子どもも大人も一緒になって、パレードに参加したり、その行進を見物し始めた。

オズワルド「さぁ、君は特等席へ」

優雅な仕草で、オズワルドさんは例のソファを指し示す。

◯◯「ありがとうございます」

腰を降ろしても落ち着かない胸の高鳴りと共に、始まったばかりの盛大なお祭りを見下ろした。

オズワルド「さてさて、では感謝祭といえば?」

◯◯「え……?」

不意に質問を投げかけられ、瞳を瞬かせる。

すると、オズワルドさんは、たくさんの色とりどりの卵を取り出した。

オズワルド「感謝祭といえば、卵なんだよ。 それ……っ!」

◯◯「あっ……!」

突然、オズワルドさんが山車の上から卵を投げてしまう。

驚いて立ち上がり、落下する卵を目で追いかけると……

◯◯「あれ……?」

なんと、卵が地面まで落下する前に、ふわりと浮き上がった。

それがぷかぷかと、シャボン玉のように空中を彷徨ったかと思えば……

オズワルド「パチン…… !」

◯◯「っ……?」

オズワルドさんが声に出して指を弾くと、空中で卵がぱかっと割れた。

やがてその殻が、虹色の粉となり地上に降り注いでいく。

◯◯「なんて綺麗……」

オズワルド「ははっ! やっぱり、卵を使うと楽しいねぇ! さて、お次は……」

楽しげに次々と卵を放り投げると、彼は今度は山車の中に設置されたレバーをぐっと引いた。

すると……

オズワルド「さーて! お待ちかねの、虹だよ!」

◯◯「っ…… !」

この山車、最大の仕掛けである水が噴出され始める。

街中から、子ども達の喜ぶ声と、大人達の感嘆の声が上がり始めた。

(すごい!)

陽の光をキラキラと反射する水しぶきと、その周りに現れる虹があまりにも綺麗で、見とれてしまう。

オズワルド「おやおや、設計ミスかな、こっちまで水がかかるなんて」

◯◯「え……?」

スチル(ネタバレ注意)

美しくかかる幾重もの虹を夢中になって眺めていると、オズワルドさんが、そっと私の髪に触れた。

オズワルド「水の噴出力が思いのほか強かったようだ……かかっちゃつたね」

彼の手……魔法を生み出すその大きな手に包まれると、不思議な高揚感が全身に広がっていく。

◯◯「全然平気です。それより……。 虹がいっぱいで、綺麗ですね」

オズワルド「そりゃあ、よかった。僕は感謝祭で君にしてあげたかったことが果たせて、大満足!」

◯◯「え……?」

オズワルド「僕はね、この国に新しい文化を作りたいんだよ。このお祭りにしても、僕の技術にしてもね! 卵から虹を作り出す……そんな誰も考えられないような、それでいてハッピーな! ……そんな技術をね」

◯◯「オズワルドさん……」

オズワルド「あ。ほらほら子ども達が手を振ってるよ。振り返してあげて!」

そう言われて、慌てて子ども達の方に手を振ると、わっと歓声が上がる。

オズワルド「ほら、お姫様に手を振ってもらって喜んでるだろう? そして、僕も想定外なほどずぶ濡れだ。でも、ここまできたらとことんやろう! ほら、水鉄砲だよ! これで子ども達と遊ぼう! 君のもあるよ」

◯◯「はい!」

水鉄砲を受け取ろうとすると…ー。

◯◯「!」

不意に頭の後ろを引き寄せられ、唇にキスが落とされた。

触れた場所から熱が広がり、体中を駆け巡る……

オズワルド「来てくれてありがと、◯◯ちゃん。これからもどうぞよろしく!」

そう言ったオズワルドさんの後ろでは、大きな虹が色鮮やかに輝いていた…ー。

 

 

おわり。

 

 

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