太陽7話 心の雪解け

儀式が終わり、蓬莱の国にもようやく春が訪れた。

(冬の景色も、すごく綺麗だったけど……)

(この国は春も、とても綺麗だな)

庭園を散歩しながら、足元で咲く花に心を和ませる。

凍哉「○○、ここにいたんだね」

出会った頃の不愛想とは打って変わって、穏やかな笑みを浮かべた凍哉さんが、私も元へ歩み寄る。

○○「凍哉さん、どうかしましたか?」

凍哉「今日は、君を案内しようと思ってね」

○○「凍哉さんがですか……?」

凍哉「君には随分、世話になったから。 冬景色を落とした後の、この国を君に見せたい」

(凍哉さん……)

(そう思ってくれるなんて、嬉しいな)

○○「はい……!」

私は凍哉さんに連れられて、蓬莱の国を巡ることになった。

○○「蓬莱の国は、どこへ行っても美しいですね」

目にするものすべてに、長年の伝統に培われた形式美が感じられる。

凍哉「冬が長いぶん、室内の意匠には気を配ってるね。 冬の間は、深い雪に埋もれてしまうこの国だけど……。 厳しい季節にも、生きる喜びや楽しさも見い出せる。 それは、街の皆の心が豊かだからなんだ」

凍哉さんは愛しげに目を細め、美しい古都を見渡した。

(長い冬の間、笑うことを禁じられても耐えられるのは……)

(凍哉さんが、街の人の幸せを願っているからなんだな)

男性「凍哉様! 先日の儀式ではありがとうございました」

儀式の後の一件で、凍哉さんの力が皆に知れることとなった。

女性「これからは、突然冬から春になっても驚いたりしませんよ! 王子に楽しいことがあったんだと思えば、私達も嬉しい気持ちになれますから」

凍哉「ありがとう、皆……」

凍哉さんは皆に向かって、穏やかな笑みを向ける。

(冬を見守る凍哉さんの役目は、とても大切なものだけど)

(これからは、少しでも凍哉さんの心が軽くなるといいな)

街の人と笑い合う凍哉さんを、私は隣でそっと見つめていた…―。

太陽が西に傾き、夕闇が迫り始める頃……

○○「もうこんな時間……楽しくて、一日があっという間でした」

凍哉さんの案内で、蓬莱の名所をたくさん案内してもらった。

凍哉「俺もだよ。こんなに穏やかな気持ちで過ごせたのは久しぶりだ」

○○「冬の間、楽しいことがあっても笑いをこらえる日々でしたしね」

そう言うと、凍哉さんが困ったように眉尻を下げた。

凍哉「特に儀式の前は、何度も君に笑わされそうになって危なかった」

○○「すみません、そんなつもりじゃなかったんですけど……」

凍哉さんがくすっと肩をすくめる。

凍哉「もちろん、あれは君が俺を助けてくれたんだってわかってる。 それに、俺が笑いそうになったのは……。 あの時の君が、なんてかわいいんだろうと思ったからだよ」

(え……?)

思わぬ言葉に、胸が甘く鼓動を打ち始める。

凍哉「あの時のお返しに、今度は俺が君をたくさん笑わせる番だね」

優しく微笑む凍哉さんが、私に向かって手を差し出す。

(凍哉さん……)

遠慮がちに取ったその手は、いつか触れた時よりもずっと温かなものだった…―。

 

 

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