月7話 膨らむ想い

大事な儀式を終えて、凍哉さんの表情は晴れ晴れとしていた。

凍哉「これでしばらくは、心置きなく笑えるかな」

また冬が来るまでの間は、凍哉さんも自由に笑うことが許される。

〇〇「凍哉さん、お疲れ様でした」

凍哉さんは私を見つめ、にこやかに頷いてくれた。

凍哉「儀式ではありがとう。なんだかんだ言って、君には助けられてばかりだ」

(嬉しいな。凍哉さんから、笑顔でお礼を言ってもらえるなんて)

(ずっと凍哉さんの不機嫌な顔しか見ていなかったから……)

人懐こい笑顔を向けられ、思わず目を瞬かせてしまう。

凍哉「あ、そうか……まずは謝らなきゃ」

そんな私に気づき、凍哉さんははっとしたように目を見張る。

凍哉「今までずっと、無愛想でごめんね」

凍哉さんは私を見つめ、ばつが悪そうに口を開いた。

凍哉「君は俺を気にかけてくれていたのに……随分、気を悪くさせたと思う」

〇〇「いいえ、気にしないでください。事情はちゃんと教えてもらえましたし。 それに……無愛想だった時の凍哉さんも、優しい方だってわかっていましたから」

そう伝えると、凍哉さんはほっとしたように息を吐いた。

凍哉「君のおかげで、無事に冬を送ることができた。 もう一度、ちゃんとお礼をさせてくれないかな?」

〇〇「そんな、お礼なんて……」

遠慮する私を見て、凍哉さんは何か思いついたように、ぽんと手のひらを打つ。

凍哉「いいことを思いついた」

(いいこと……?)

凍哉「冬の間、ずっと笑ってなかったから、まだ少し顔が強張っちゃって。 よかったら、これから俺の気晴らしに付き合ってくれる?」

凍哉さんに誘われて、二人で向かった先は……

春の訪れにひときわ華いだ、雅なる古都だった。

凍哉「春になったら、寄席に行って思いきり笑いたかったんだ」

〇〇「寄席ですか。楽しそうですね」

凍哉「人気の噺家がたくさん出るから、君も気に入ると思うよ」

寄席へ足を踏み入れると、皆の賑やかな笑い声に包まれた。

噺家が順番に出て来て、面白い小話をしてくれる。

凍哉「今の噺、最高だなあ」

隣を見れば、凍哉さんが大きく口を開けて、楽しげに笑っている。

(凍哉さんは、これまで長い冬をどう過ごしてきたんだろう……?)

笑顔を封じ、凍てつく冬を一人静かに見守ってきた凍哉さんを思う。

(春が来て、凍哉さんが心から笑えてよかった……)

凍哉「〇〇、楽しんでる?」

〇〇「はい、すごく楽しいです」

凍哉さんの笑顔を見ると、心の中で小さな蕾がほころぶ。

彼に抱いた秘かな恋心は、いつのまにか私の胸いっぱいに咲いていたのだった…-。

 

 

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