第5話 カラスの宣戦布告

一人でカラス一族撃退の計画を遂行するのだというリーヤさんの、お手伝いをさせてもらうことになってから、しばらく…-。

リーヤ「おい、そこの計測器取ってくれ」

〇〇「はい」

リーヤ「あー、あとこれ、計算できる?」

〇〇「はい、やってみます……!」

リーヤさんにいろいろと教えてもらいつつ、まだまだ足手まといのようではあったけれど……

リーヤさんは、私を遠ざけようとはしなかった。

リーヤ「あー、ここの造りが0.1ミリずれるんだよなー……」

ぼやくようにリーヤさんが言う。

ばたりと仰向けに倒れ込み、いつもそうしているように帽子の飾りを指先でいじった。

(あ、リーヤさんの癖……)

考え事をする時に、リーヤさんはよくそうしている。

私はそっと、リーヤさんの邪魔にならないように、隣に寄り添った。

と、リーヤさんが体勢を変えて、私の方を向く。

リーヤ「少し、休憩だ」

柔らかな笑みに、とくんと胸が音を立てた。

リーヤ「それにしても、お前……よく頑張ってるよな」

〇〇「え……?」

リーヤ「正直、どっかで逃げ出すんじゃねーかって思ってたけど……」

〇〇「リーヤさんは、すごく優しいのに……そんなことしません」

リーヤ「俺が優しいって?お前、ちょっと頭おかしいんじゃねーのか」

そう言ってリーヤさんは、屈託なく笑う。

その笑みが、最近は特に優しく感じられて……

(一緒にいると、時々……胸が苦しい)

〇〇「でも……皆、リーヤさんを慕ってるし」

リーヤ「そりゃ、俺の脳みそを頼りにしてっからだろ」

〇〇「そんなこと……!」

リーヤ「それに、つまんねーよ」

〇〇「え……?」

リーヤ「つまんねー……俺も昔は、ない頭必死に絞って、馬鹿って言われたくなくて……。 けど、望みが叶っちまって、今、天才って言われるようになれば。 これはこれで、ちょっと寂しいっつーか……マジで、ひとりぼっちみたいじゃん……」

リーヤさんが、すっと帽子を手に取り、その顔を覆ってしまう。

リーヤ「〇〇……」

〇〇「……!」

顔を隠してしまったままのリーヤさんが、そっと私の手を握った。

(どうしよう……胸が締めつけられるみたい)

堪らずに、強くその手を握り返す。

リーヤ「もしさ……この計画が上手くいって国が守れるようになったら……。 俺、また昔みたいに旅に出たい。 昔みたいに、すげーモン探して心きらきらさせて、旅したいんだ……」

リーヤさんの切なく聞こえる告白に……

私達はそれからしばらく、黙って手を握り合っていたのだった…―。

その晩のこと…-。

今日のリーヤさんの話を思い出しながら、なかなか眠れずにいると……

カツン、と窓に何かが当たった。

(何……?)

恐る恐るベッドから下りた瞬間……

〇〇「……っ!」

激しい勢いで窓が突き破られ、いっせいにカラスが飛び込んできた。

リーヤ「〇〇っ! 大丈夫かっ!?」

音を聞いて駆けつけてくれたのか、リーヤさんが部屋に駆け込んでくる。

〇〇「リーヤさん……!」

私に群がろうとするカラスを掃い、リーヤさんはかばうように私を抱きしめた。

リーヤ「っく……! 卑怯だぞ、てめえ! どういうつもりだ!? 襲うなら、正々堂々俺を襲いやがれっ!!」

すると……

??「っふ、くくくっ。お前の女に、ちょっとしたご挨拶だよ」

カラスの大群の中から、突然、黒ずくめの男性が姿を現した。

リーヤ「は、はあっ!?こ、こいつはそんなんじゃねーよっ!」

リーヤさんは、怒っているのか、照れているのか、顔を赤くしている。

カラスの王「くくっ、カラスの王たるもの、なんだって見ておるぞ。 家臣のかわいいカラスがたくさんいるのだからな」

リーヤ「ふん……覗き見とはいい趣味じゃねーか」

カラスの王「その女が貴様の手伝いで疲れて眠り込んだ時に、貴様が顔を赤くして女の頭を撫でていたことも」

リーヤ「なっ……なななな何を言ってんだ馬鹿野郎!!」

(……えっと)

リーヤ「てめえ! マジ許さねえからな!」

一時、リーヤさんとカラスの王が、一触即発の雰囲気で睨み合う…-。

カラスの王「しかし……結果、貴様が何か企んでいる様子だということがわかったが……。 それならば我々にも考えがある」

リーヤ「なんだと?」

カラスの王「宣戦布告だ……!」

リーヤ「くそっ!待て……!!」

ばさりと渦を巻くように、カラスの大群が部屋を駆け巡る。

その羽ばたきの激しさに目を閉じると、その次には……

リーヤ「……逃げられたか」

荒らされた部屋の中には……どこにもカラスの王の姿はなかったのだった…-。

 

 

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