第4話 甘い香りのカクテル

バーカウンターに腰を下ろすと、眼前には美しい夜景が広がっていた。

まだ街の眠りは浅いのか、あちらこちらに明かりが灯って星空のように瞬いている。

○○「窓が広いんですね。とても綺麗……」

ジェイ「まるで天空の城だろう? この眺めも気に入っているんだ」

少し得意げに説明するジェイさんの元に、店のマスターがやってくる。

マスター「ようこそ。何をお作りいたしましょう?」

ジェイ「そうだな……こちらのプリンセスに、とっておきを」

ジェイさんが甘い声で告げた言葉に、マスターは恭しく頭を下げる。

グラスを取り出すと、手早くカクテルを作ってくれた。

ジェイ「ミモザか……」

私の前に置かれたグラスを見て、ジェイさんがつぶやく。

(ミモザって、花の……?)

マスター「こちらのカクテルの名前です。王子にも、こちらを……」

ジェイさんの前にも、同じグラスが置かれる。

淡いオレンジ色のカクテルが入ったグラスを、私達は手に取った。

ジェイ「では、今夜の再会を祝して……乾杯」

カチン、と二つのグラスが交わる。

一口含むと、甘い香りが口内に広がった。

(飲みやすい……)

思わず頬を緩めた私を、ジェイさんが見つめる。

ジェイ「どうかな、味は?」

○○「とても飲みやすいです。おいしい……」

ジェイ「そう、ならよかった。好きなだけ飲むといいよ」

○○「ふふ……酔わないように気をつけますね」

ジェイさんもグラスを口に運び、口角を上げる。

ジェイ「これは、特別なワインを?」

マスター「ジェイ王子はワインを嗜まれると聞いておりますので、ノープリーのスパークリングでご用意しました」

○○「……ジェイさんをご存じなんですか?」

マスター「ええ。先日のプリンスアワードのパーティで、バーテンダーとして出席させていただきましたので」

ジェイ「それで、彼女へのカクテルもぴったりなものが出てきたのか……さすがだね」

満足そうなジェイさんの笑みを見て、マスターは一礼し、その場を去って行った。

ジェイ「……いい店だな。 大切に使われてきたバーカウンター、並んだボトル、照明に音楽……。 どれもマスターのこだわりが感じられる」

○○「はい。とても素敵なお店で、居心地もよくて……」

そう告げる私の頬を、ジェイさんがそっと撫でる。

ジェイ「君と来られてよかったよ。一人で過ごすにはもったいない店だ」

○○「そんな……こちらこそ、素敵なお店に連れて来てくださってありがとうございます」

優しい手が、私の頬を撫でる。

○○「……ジェイさん?」

ジェイ「ああ、いや……君をもてなしたいと思って声をかけたつもりだったんだ。だけど、俺は…―」

ジェイさんが言葉を濁す。

その瞳に、どこか悲しげな色が見えた気がした…―。

 

 

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