第2話 ナイトミュージアム

豪奢な調度品に彩られたホテルのロビーの中央で、私はジェイさんと向き合った。

○○「ジェイさん、もしかして今からお出掛けですか?」

品のいいジャケットを身にまとうジェイさんは、以前とは違う雰囲気を醸し出している。

けれど相変わらず穏やかな笑みに、気兼ねなく話をしていると……

ジェイ「ああ……俺は昼間出歩けないからね」

○○「あ……」

すっかり忘れていた事実に、私ははっと息を吞んだ。

(私……)

ジェイさんはハーフヴァンパイアで、太陽が昇っている間は活動できない。

(確か……親友のお父様に嚙まれてしまったって)

そのことを思い出し、弾んでいた胸が途端にきゅっと苦しくなった。

○○「すみません、私……」

目を伏せる私に、ジェイさんは笑って首を振った。

ジェイ「気にしなくていいよ。それより、これから時間あるかな?」

○○「はい、大丈夫ですが……」

ジェイ「せっかくだから、夜の街を俺にエスコートさせてよ」

ジェイ「え?」

ジェイ「まだまだ、今日は終わらないってね」

おどけるようにウインクをしながら、ジェイさんはもう一歩私に近づく。

ジェイ「それに、君にも夜の世界を楽しんでほしくて。 どうかな? 一緒に来てくれる?」

ジェイさんが、私にそっと手を差し伸べた。

(お誘いはもちろん嬉しいけれど、お邪魔になってしまわないかな)

ためらっていると、私の考えを見透かしたように、ジェイさんが苦笑した。

ジェイ「ほら、おいで」

○○「……はい」

昼の木漏れ日のように温かく笑いかけられ、自然とその手を取ってしまっていた。

ジェイさんの温もりが、触れた指先から伝わってくる。

ジェイ「それじゃあ、行こう。こっちだよ」

(ジェイさん過ごす夜……)

ジェイさんに導かれ、夜を歩き出す。

これから始まる時間が素敵なものになると、どこかでそう予感していた…―。

○○「ここは……?」

連れて来られた場所を、ぐるりと見回す。

ホテルの回廊には大小さまざまな彫刻が展示され、ほのかな明かりに照らされていた。

ジェイ「ここはね、美術館だよ」

○○「ここが、ですか?」

ジェイ「このホテルのオーナーが集めたコレクションが中心になっててね。特別展も開かれてるんだ。 今回の特別展は、ナイトミュージアムなんだよ」

○○「夜の美術館……」

(ホテルの中に美術館があって、しかも夜も見られるなんて……)

胸がわくわくと踊り出してしまう。

ジェイ「ああ、夜に開かれている美術館なんて滅多にないし、俺にぴったりだろ?」

―――――

ジェイ『ああ……俺は昼間出歩けないからね』

―――――

ジェイさんの言葉が、脳裏によぎる。

○○「……素敵な特別展ですね」

(ジェイさんも、この美術館なら楽しむことができるんだ)

以前に彼が、画家になりたかったと悲しげに言っていたことを思い出す。

ジェイ「じゃあ、付き合ってくれるかい?」

うかがうような瞳に、私はしっかりと頷く。

○○「もちろんです。ジェイさんが気に入るような絵があるといいですね!」

ジェイ「ああ……そうだね」

嬉しそうに目を細めたジェイさんを見ると、心に明るい灯がともるようだった…―。

 

 

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