夜空には、美しい星が煌めいている。
俺と○○ちゃんは手を握り合ったまま、その空を見つめていた。
○○「ジェイさん……ジェイさんには、夜空の星の光は、暗過ぎますか?」
ジェイ「星の光、か……」
瞬く星々は夜空を埋め尽くすように光を放っている。
しかしそれは、地上を照らすほどの光量ではない。
ジェイ「そうだな……少し、足りないな」
○○「そうですか……」
ジェイ「でも……綺麗だとは思うよ」
ただ、俺には少し、寂しく感じるというだけのことだ。
心に影が差しそうになったところで、不意に彼女が手を下ろし、振り返った。
○○「あの、ジェイさん……」
俺の両手を、彼女のしなやかな指が包み込む。
真剣な眼差しが、俺をまっすぐに捕らえた。
○○「もう少し、お時間ありますか?」
ジェイ「ああ……もちろん。今は俺の時間だからね。 それよりも、もう遅い時間だ。君はもう部屋に戻らなければいけないんじゃないかい?」
○○「まだ、もうしばらく大丈夫です。だから……私にもう少し、時間をください」
ジェイ「俺には、断る理由はないよ。けれど、なぜだい?」
○○「一緒に行きたい場所があるんです。 そこになら、きっとジェイさんに喜んでいただける光があるから……」
彼女は不安そうに俺の様子をうかがっている。
その優しい気遣いは、俺の胸に灯をともしてくれるようだった。
ジェイ「どこに連れて行ってくれるのか、期待してるよ」
そう告げると、彼女ははにかむように笑って頷いた…―。
○○ちゃんが俺を連れて来てくれたのは、さっき彼女と来た美術館だった。
ジェイ「……ここが、目的地?」
○○「はい」
ジェイ「でも、さっきもここはすべて見て回っただろう?」
ぐるりと見回しても、先ほどと変化があるようには思えない。
首を傾げる俺を、いたずらっ子のように愛らしい笑顔を浮かべながら、彼女が導く。
○○「こちらです、ジェイさん」
ジェイ「これは……」
彼女が足を止めたのは、青空の下で穏やかに眠る少年の絵の前だった。
ジェイ「この絵は、確かに素晴らしいけれど……」
困惑する俺に腕を絡め、彼女は目を細める。
○○「この位置から見た時には、気づかなかったんです。でも……」
彼女は数歩、俺を引っ張って横にずれる。
そして白い指を、まっすぐに絵画へと向けた。
○○「ほら、見えませんか? この角度からだと、男の子に寄り添う女の子が」
ジェイ「え……?」
驚いて、目をこらす。
すると、光源が変わった絵画には、少女の姿が浮かび上がっていた。
ジェイ「……驚いたな。気づかなかった」
○○「さっき、ここを離れる時に見つけたんです。 普通に見ていたらわからないけれど、あの男の子は一人じゃなかったんだ、って……」
彼女の瞳が、俺を捕らえる。
○○「きっと、ジェイさんと私も、同じなんです。 普通には見えなくても、私はずっとジェイさんの隣にいる……。 ジェイさんにはそれが感じられるはずです」
ジェイ「……ああ、そうだな」
寄り添う少女の姿を見つけると、少年の表情も違ったものに見えてくる。
(幸せそうに笑っているみたいだ……)
温かな気持ちで息を吐く俺に、そっと○○ちゃんが寄り添ってくれた。
○○「さっきも、言った通りです……私は、ジェイさんのものです。 ずっとこうして、寄り添っていますから……だから、寂しくなんてありません」
(……!)
ジェイ「……ありがとう」
胸が詰まって、俺に言えたのはそれだけだった。
彼女の温もりが俺に染み入ってくる。
(この温もりを、もう少し傍で感じたい……)
視線を向ければ、彼女の瞳もこちらを向いていた。
星のように煌めく彼女の目を見つめ、吸い寄せられるように顔を近づけ……
ジェイ「○○ちゃん……好きだよ」
囁きと同時に俺は、彼女にそっと唇を重ねた…―。
おわり。