部屋から出ようとした俺は、○○ちゃんによって呼び止められた…―。
ジェイ「俺だって、君を離したくないって我慢していたんだ。 だから、今夜は君を離さないよ」
そう告げて唇を重ねると、彼女は瞳を閉じ、俺に身を委ねる。
腕の中には確かに彼女がいて、その温もりを感じられて……
重ねた唇は、柔らかくて心地よかった。
ジェイ「……○○ちゃん」
頬を撫でながら囁けば、彼女は恥ずかしげに目を伏せる。
○○「……すみません。わがままを言ってしまって」
ジェイ「いや……驚きはしたけど、正直、嬉しかったよ。 君が俺と同じ気持ちでいてくれたということももちろんだけど……。 素直にわがままを言ってくれるくらい親しくなれたんだと思ったら、柄にもなく浮かれてしまった」
○○「呆れたりしませんでしたか?」
ジェイ「まさか。むしろ嬉しいと思っているのに」
抱きしめる腕に力を込めると、彼女はほっとしたように息を吐く。
○○「よかった……勝手なことを言い過ぎたと思っていたので……」
ジェイ「女の子は少しくらいわがままでもいいんだ。 男を困らせるくらいの方がいい女だ。だけど……」
不意打ちで抱き上げると、彼女ははっと息を呑み身を固くする。
(突然どうしたの? ……なんて思ってるんだろうな)
どうやら彼女は、俺のことを紳士だと思っているきらいがある。
(そんなことはないんだけどな……男は皆、オオカミなんだから)
口角を上げ、笑みを浮かべてみせた後、彼女を抱いたままベッドへと移動する。
そっと彼女をベッドに下ろすと、驚いたようにこちらを見上げていた。
○○「あの……ジェイさん……?」
俺が何をしようとしているのか、彼女も気づいてはいるのだろう。
わずかに怯えたような光が、彼女の瞳に揺れていた。
ジェイ「……俺は、何をしているんだろうな」
○○「え……?」
ジェイ「こんなふうに君を見下ろして、君に触れて……。 この手に伝わってくる温もりに、少し甘えすぎているんじゃないか……そう思っているんだけど」
○○「けど……?」
ジェイ「君の気持ちなんか考えずに強引なことをしたい、とも思ってしまうんだ。 欲にまみれていて、みっともないな。 それでも、この欲を抑えることができない……」
(ごめんね、○○ちゃん)
心に浮かべた言葉をそっと飲み込んで、俺は彼女の唇を塞いだ。
○○「ん……」
小さく漏れる吐息すら、愛おしい。
彼女の髪に指先を絡めると、しなやかな髪を感じられた。
ジェイ「逃げなくていいのかい?」
○○「……なぜ、ですか?」
ジェイ「これから俺が何をしようとしているか……君は、わかっているよね?」
髪を掻き上げながら囁くと、彼女は驚いたように目を見開き、それからそっと伏せた。
○○「……はい」
ジェイ「もしも、怖いと思うなら……逃げるのは、今が最後のチャンスだよ?」
少し意地が悪い言い方だというのはわかっている。
(それでも……俺は安心したいんだ。彼女に無理強いしているわけじゃない、って)
ジェイ「本当に、このまま……いいのかい?」
じっと、彼女の顔を見つめる。
まるで水晶のように透きとおった彼女の瞳は、しばらく迷うように彷徨って……
やがて意を決したように俺をまっすぐに見据えた。
○○「逃げたり、しません」
ジェイ「でも、震えているよ?」
○○「……少しだけ、緊張しています。 でもそれは、怖いっていうのとは、違うんです。 上手く言えないんですけど、私は……」
彼女は真っ赤になって声も出せない様子だったけれど、はっきりと頷いた。
(……これを免罪符にようなんて、本当に最低だな)
(だけど……)
彼女の額に、そっと口づける。
ジェイ「大丈夫、怖がらなくていい。俺に身を委ねて」
○○「……はい」
○○ちゃんの腕が、俺の首にしっかりと絡まる。
その温もりを感じながら身を寄せると、ベッドのスプリングがぎしりと軋んだ…―。
おわり。