第4話 少年たちの声援

夕焼けに染まる野原で、キースさんは少年達にしきりに声をかけられていた。

キースさんは困ったような顔で、頷いたり首を捻ったりしている。

少年1「ねえ、鬼先生はどうしてここにいるの?」

キース「……明日のプリンスアワードに招待されたんだ」

少年1「え! じゃあ、王子様なの?」

キース「ああ」

少年達の瞳が輝く。

少年1「ねえ皆、鬼先生は王子様だった!」

少年2「鬼王子だった!」

少年達は面白そうに、手を叩き合った。

少年1「鬼先生、プリンスアワード獲るんでしょ?」

少年の一言に、キースさんは言葉に詰まる。

(キースさん……)

いくつもの熱い眼差しが注がれ、キースさんは居心地悪そうに目を逸らした。

キース「……」

少年1「鬼先生なら絶対獲るよ!」

少年2「鬼先生、応援してるから頑張ってね!」

キース「……」

何も答えないキースさんの周りで、少年達は口々に激励の言葉を投げかけた。

……

少年達と別れた帰り道…-。

キースさんはまっすぐ前を向いて歩き続けている。

(キースさん、ぼんやりしてるけど……)

〇〇「キースさん、どうしたんですか?」

キース「ああ……」

我に返ったように、キースさんは私の目を向ける。

けれどすぐに逸らし、夕焼けに染まる空を仰いだ。

〇〇「プリンスアワードのこと……。 子ども達も、キースさんを応援してくれていましたよ」

キース「……何が言いたい」

〇〇「……」

(やっぱり、プリンスアワードには出たくないのかな)

キース「俺は、プリンスアワードには興味はない」

(そっか……)

キースさんの強い口調に、私はうつむいた。

キース「しかし、あいつらの合唱は見届けてやってもいい」

〇〇「え、それって……」

(プリンスアワードを前向きに考えるってことなのかな……?)

〇〇「あ、あの。私も応援しています」

キースさんを覗き込むと、キースさんはまた目を逸らした。

キース「……それで、お前は覚えたんだろうな?」

〇〇「え?」

キースさんは足元を見回し、拾った枝を私に差し出した。

キース「ほら」

〇〇「指揮棒……」

キース「俺をずっと見ていたんだろう。少しくらいは上達しているはずだ」

〇〇「いえ、本当に見ていただけなので……」

キース「口ごたえだけは一人前だな」

〇〇「……」

私は、キースさんの姿を思い浮かべながら枝を掲げる。

思い切って、空を切った。

キース「違う」

〇〇「え……」

キース「お前は何を見ていたんだ。俺はそんな振り方はしていない」

〇〇「えっと、じゃあ」

枝を握り直した時、キースさんが私の手に触れる。

(あ……)

キース「貸せ」

〇〇「あ、はい」

私は慌てて、枝をキースさんに渡す。

キース「見ていろ」

〇〇「は、はい」

キースさんが一つ咳払いをし、ゆっくりと枝を振り上げた。

私達は枝を振りながら、ゆっくりと、夕闇が迫る野原を歩いていった…-。

 

 

<<第3話||太陽覚醒へ>>||月覚醒へ>>