第3話 優しい王子様

晩餐会の後……

ジーク「今夜はあなたをエスコートできて幸せな夜でした」

ジークさんは、食後の長い歓談までしっかりと終え、私を部屋まで送ってくれた。

(ジークさんって、絵本から出てきたみたいに完璧な王子様だな)

(礼儀作法も完璧で、いつでも人にやさしくて、剣舞もすごく上手で……)

ふと、先ほど彼の足を見て感じた違和感を思い出す。

○○「……本当に大丈夫ですか?」

ジーク「ええ。御心配をおかけしてしまいましたね」

ジークさんは、むしろ私を気遣うような様子で笑った。

ジーク「では…-」

彼は部屋の入口の方へと引き返そうとしたけれど、途中で壁に手をつき立ち止まってしまう。

○○「ジークさん?」

ジーク「大丈夫……」

(大変!顔が真っ青……!)

ジークさんはその場に倒れ込みそうになり、私は慌てて近くのソファーへと誘導した。

ジーク「申し訳、ございません……」

○○「やっぱり、怪我をしたんですね?どうして……」

彼の足は、靴の上から見てもわかるほどに腫れ上がっている。

(すごく痛そう……)

ジーク「招待した他国の王子に怪我をさせたとあっては、国際問題になってしまいます」

ジークさんは、真っ青な顔に、それでも笑みを浮かべている。

○○「それは……」

(でもこんなになるまで……)

ジーク「大切な式典を控えたこんな時に、騒ぎを起こすべきではありませんから」

口元まで出かかった言葉は、彼の毅然とした眼差しを前に、ひどく恥ずかしいものに感じられた。

(ジークさんは、正しい)

(私がもっと早くにちゃんと気づいて、理由をつけて食後の歓談を切り上げればよかったんだ)

ジークさんの苦しそうな顔を見ると、やるせない思いが込み上げてくる。

(どうしよう……お医者さんを?)

(でも、お医者さんだってこの国の人だから)

私は、大きく息を吸い、頭を切り替えると、彼の靴の紐を緩める。

ジーク「プリンセス?」

○○「じっとしてください。手当てをします」

ジーク「あなたにそのようなことをしていただくわけには……」

○○「お願いします……私にやらせてください」

自分が情けなくて、声が震えてしまう。

ジーク「……私にとって、一生に一度の幸運……でしょうか」

ジークさんは申し訳なさそうに笑った。

そっと靴を脱がすと、腫れ上がった足首に冷たく冷やしたタオルをあてる。

シャンパンクーラーの中にあった氷をタオルに包み、さらにその上から包み込んだ。

ジーク「……っ!」

○○「痛いですか……?」

ジーク「いえ。あなたに手当をしていただけるなんて……怪我をしてよかった」

○○「そんな…-」

ジーク「でも本当は……あんな無様なところは見せたくなかったのですが」

ジークさんは、こんな時まで私を気遣ってくれる。

○○「無様だなんて……見とれるくらい格好よかったです」

そんなジークさんを前に、思わず本音が漏れてしまった。

ジーク「え……?」

(あ……!私、つい……)

○○「あ、あの……」

ジーク「……っ」

目が合うとジークさんの頬が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

○○「も、もう少しタオルを持ってきます。ゆっくり休んでくださいね」

慌てて部屋を飛び出して、扉の前で息を吐いた。

今になって、自分の頬が熱くなっていく。

(ジークさん、真っ赤だった)

(びっくりしたよね……いきなりあんなこと言って、変に思われたかな)

(恥ずかしい……)

扉の取っ手がひんやりと心地よく感じられる

全身が心臓になったようで、しばらくはその場から動けなかった…-。

 

 

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