扉が閉じると、急に時計の音が大きくなった気がする…ー。
◯◯「ジーク、さん……?」
扉とジークさんとの間に閉じ込められて、私は何度もまばたきを繰り返す。
ジーク「……随分と、仲が良くていらっしゃるのですね」
◯◯「え……?」
ジーク「あの者がお気に召したのですか?」
何のことを言われているのか理解するまでに、しばらく時間がかかった。
(気に入ったって、兵士さんを……?」
◯◯「怪我した時に、どうしたら痛み少なく普段に近い動きができるかって教えてもらってただけで……」
(御前試合で足をこれ以上痛めてほしくなくて……)
ジークさんは長いまつ毛を伏せたままで、その瞳の色は私にはわからない。
小さなため息とともに、彼が私をまっすぐに射抜いた。
ジーク「……あなたは、お優しい。 けれど、そのお優しさが、私の胸を締めつける」
(ジークさん……?)
あまりに苦しそうなその表情に、なぜだか私まで胸が締めつけられる。
ジーク「私のためだとはわかっています。 それでも、あなたが他の男と話しているところを見るのは嫌なのです」
◯◯「え……?」
思いがけない言葉に、私は言葉を失ってしまう。
(もしかして……やきもち……?)
ジークさんの頬が染まっていき、不意に彼は私に背を向けた。
ジーク「器の小さな男だとお笑いになりますか?」
◯◯「そんな……」
(ジークさんが私のことでやきもちを焼くなんて……思わなくて)
ジーク「いいえ、いいのです。自分でも驚いているのですから。 まさか、こんなに心を乱されるなどと……」
(心乱される…… ? )
たくさんの甘やかな言葉が、私の胸に押し寄せる。
心臓が大きな音を立てて、周りの音がどんどん小さくなっていく。
ジーク「……さあ、挽回しなければ。 明日の御前試合……私は、負けません」
近くて遠い場所で、彼が私に語りかけている。
その言葉は、その夜、いつまでも私の頭の中に鳴り響いていた…ー。
…
……
プリンスアワード当日を迎え、私はバルコニーから剣術の御前試合を観ていた。
そして、ついに勝敗がつき…ー。
審判「最終試合勝者、宝石の国メジスティアのジーク王子」
(ジークさん…… ! )
審判の声とともに、会場中から拍手が沸き起こる。
審判「ジーク王子には、トロイメアの◯◯姫より祝福が与えられます」
その声とともに、私のいるバルコニーへと視線が集まる。
ゆっくりと階段を昇ってくるジークさんの足は、しっかりと地面を踏みしめていた。
ジーク「……優勝いたしました」
首筋に汗を浮かべたジークさんが、誇らしげに微笑む。
(胸が……)
一晩中頭の中に響いていた声を間近に聞いて、胸が大きく音を立てた。
◯◯「おめでとうございます。 とても……素敵でした」
ジーク「プリンセス」
そう言うなり、ジークさんは私を抱き寄せる。
唇が触れる寸前まで、ジークさんの顔が近づき……
◯◯「……っ」
まだ火照っている彼の腕が触れた場所から、体が甘く溶けてしまいそうだった。
ジーク「御前試合の勝者は、あなたから祝福をいただけるのですよね」
◯◯「は……はい」
ジーク「先ほどのお言葉が本心からのものであるならば……。 本当に、素敵だと……頼もしいと、思ってくださるのなら。 私に、あなたをずっと守らせてく ださい」
彼の声が、微かに震えているのがわかる。
ジーク「傍に置いて……私だけを頼ってください」
(ジークさん……)
ジーク「プリンセス、どうか勝者への祝福 を」
耳元で響く声は、どこまでも甘くて……
私は、気がつくと彼の唇にキスを落としていた。
(私……)
口づけた場所が熱く、割れんばかりの観客の拍手さえも遠のいていく……
ジーク「私には、永遠にあなただけだ……」
彼はそう囁くと、私の吐息を深く、遠く、奪うのだった…ー。
おわり。