第5話 つかの間のまどろみ

それから数日…-。

城の庭には草木が茂り、虫達が楽しそうに合唱をしている。

(今日もいい天気……気候も本当に穏やか)

(……戦争があったなんて、嘘みたい)

頬に暖かな陽射しを感じながら中庭を散歩していると…-。

(あれは……?)

ユリウスさんが、剣の素振りをしていた。

(真剣な表情)

声をかけようかと思ったけれど、その姿に見入ってしまう。

すると…-。

ユリウス「……どうした」

彼は私に気づいて、声をかけてくれた。

〇〇「ごめんなさい、お邪魔してしまって」

ユリウス「いや……ちょうど休憩したかったとこだ」

彼は剣をおさめ、近くにあったベンチに腰かけた。

〇〇「隣……座ってもいいですか」

ユリウス「ああ……」

そっけなく答えるユリウスさんの隣に並んで腰かける。

〇〇「剣の稽古、毎日やってるんですか?」

ユリウス「ああ……いくら平和だからって、何があるかわかんねぇからな。 それに……最近、なんか妙な感じがするんだ」

〇〇「妙な感じ?」

ユリウス「誰かに見張られてるような……気のせいだったらいいんだけどな。 嫌になっちまう。戦争はもう終わったのに、妙に勘ぐり過ぎて」

ユリウスさんの瞳は、まるで怯えているようだった。

〇〇「……」

胸が苦しくなって、思わず彼の手をそっと握ってしまう。

ユリウス「……っ!」

〇〇「ご、ごめんなさい!」

すぐに手を離そうとしたけれど…-。

私の手を、大きな手が掴んだ。

ユリウス「……いや、いい。なんか落ち着く」

(ユリウスさん……)

頬が熱を持ち、それきり私は何も言えなくなってしまった。

(大きな手……剣も軽々持ってたよね)

沈黙が続く中、太陽の暖かな光が私達を包み込む。

いつの間にか、私はまどろんでいた…-。

……

目を覚ますと、蕩けそうな夕陽が私の髪を透かしている。

(いけない! 私、眠り込んで……)

慌てて立ち上がろうとすると、肩に重みを感じた。

(……っ!)

ユリウスさんが、私の肩に頭を預けて眠っている。

(あれ……この香りは……)

不意に、覚えのある香りが鼻をくすぐる。

目を閉じると、ユリウスさんの首筋から微かに、二人でつくったあの香りがした。

(使ってくれてるんだ……)

温かい気持ちがこみ上げ、思わず彼の頬に手を触れる。

(穏やかな顔……)

ユリウス「……ん」

やがて目を覚ましたユリウスさんは、驚いたように私から離れる。

ユリウス「オレ……お前の横で眠ってたのか?」

信じられないといった顔つきで、ユリウスさんが私を見つめる。

〇〇「ユリウスさん……?」

彼のまっすぐな視線を受けて、私の鼓動がなぜだか早まっていく。

ユリウス「いや……悪い。 こんなに深く眠れたなんて……久しぶりだったから」

夕陽が世界を染め上げる。

(彼から目を逸らせない……)

ユリウスさんと見つめ合っている間……私には、時間が止まってしまったかのように感じていた。

夕陽の光が届かない場所で、私達をうかがっている人影に気づくことなく…-。

 

 

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