第3話 はりつめた心

その日の午後…-。

(この国の空気は、本当に穏やか……)

暖かな陽気の中、花が咲き乱れる中庭を散歩していると……

(あれは……ユリウスさん?)

木にもたれかかり、静かに目を閉じている彼の姿を見つけた。

(お昼寝してるのかな?)

彼の少し長い前髪を、風が静かに揺らしている。

起こしてしまわないように、私はそっと彼に近づいた。

すると…-。

ユリウス「……!」

(え……!?)

腕を強く掴まれて、体が引き寄せられる。

〇〇「……っ!!」

次の瞬間…-。

私は、ユリウスさんに地面に押し倒されていた。

ユリウス「……」

(何が……起こったの……?)

あまりの突然のことと、荒々しい力に驚いて、私の胸が早鐘を打ち始める。

ユリウス「……っ」

ユリウスさんの瞳が、暗く深く沈んでいる。

(怖い……)

地面に私の両手首を押さえつけるユリウスさんの手は、微かに震えていた。

〇〇「ユリウス……さん」

ユリウス「……!」

なんとか声を絞り出し彼の名前を呼ぶと、ふっと手の力が緩んだ。

ユリウス「……悪い」

ユリウスさんは小さな声でつぶやき、私を解放した。

〇〇「あ、あの……」

(ユリウスさん、顔色が悪い……)

真っ青な顔をしたユリウスさんは、肩を小さく震わせている。

ユリウス「……不用意にオレに近づくな。 お前を傷つけてしまうかもしれない」

優しく手を差し伸べて私を起こしてから、彼はつぶやくように言った。

〇〇「どういうことですか……?」

ユリウス「……」

ユリウスさんが、苦しげに瞳を閉じる。

ユリウス「……少し前にな、この国で戦争があったんだ」

(戦争……!?)

中庭を吹き抜ける風が、木々達をざわめかせた。

(こんな平和で穏やかな国に……?)

あまりに唐突なその単語に、私は瞳をまばたかせることしかできない。

ユリウス「他国とのちょっとしたいざこざが原因で……戦争自体はすぐに終わったけど。 オレも参加してたんだよ。ひどいもんだった。 裏切者が出て、誰が敵で誰が味方かもわかんなくて……」

ユリウスさんの声が、震える。

ユリウス「何度も殺されそうになって……気が狂いそうだった。 戦争は終わったけど、今もオレはまだ…-」

身を切られるようなその声色に、私は……

胸が締めつけられて、思わずユリウスさんの腕に触れる。

ユリウス「……っ」

彼は肩を震わせたけれど、私の手を振り払おうとはしなかった。

ユリウス「さっきは悪かった。 でもわかっただろ? あんまりオレに近づくなよ。 戦争の時の後遺症だよ。無意識にオレは、近づく奴を……」

最後の言葉が聞き取れないまま……

ユリウスさんは私から離れ、その場を立ち去って行った。

(ユリウスさんは、まだ戦争の時のことが忘れられないんだ……)

はりつめた背中を見つめる。

(どうしたら、いいんだろう……)

私はしばらくそこに立ち尽くして、ユリウスさんのことを考えていた…-。

 

 

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