その日の午後…-。
(この国の空気は、本当に穏やか……)
暖かな陽気の中、花が咲き乱れる中庭を散歩していると……
(あれは……ユリウスさん?)
木にもたれかかり、静かに目を閉じている彼の姿を見つけた。
(お昼寝してるのかな?)
彼の少し長い前髪を、風が静かに揺らしている。
起こしてしまわないように、私はそっと彼に近づいた。
すると…-。
ユリウス「……!」
(え……!?)
腕を強く掴まれて、体が引き寄せられる。
〇〇「……っ!!」
次の瞬間…-。
私は、ユリウスさんに地面に押し倒されていた。
ユリウス「……」
(何が……起こったの……?)
あまりの突然のことと、荒々しい力に驚いて、私の胸が早鐘を打ち始める。
ユリウス「……っ」
ユリウスさんの瞳が、暗く深く沈んでいる。
(怖い……)
地面に私の両手首を押さえつけるユリウスさんの手は、微かに震えていた。
〇〇「ユリウス……さん」
ユリウス「……!」
なんとか声を絞り出し彼の名前を呼ぶと、ふっと手の力が緩んだ。
ユリウス「……悪い」
ユリウスさんは小さな声でつぶやき、私を解放した。
〇〇「あ、あの……」
(ユリウスさん、顔色が悪い……)
真っ青な顔をしたユリウスさんは、肩を小さく震わせている。
ユリウス「……不用意にオレに近づくな。 お前を傷つけてしまうかもしれない」
優しく手を差し伸べて私を起こしてから、彼はつぶやくように言った。
〇〇「どういうことですか……?」
ユリウス「……」
ユリウスさんが、苦しげに瞳を閉じる。
ユリウス「……少し前にな、この国で戦争があったんだ」
(戦争……!?)
中庭を吹き抜ける風が、木々達をざわめかせた。
(こんな平和で穏やかな国に……?)
あまりに唐突なその単語に、私は瞳をまばたかせることしかできない。
ユリウス「他国とのちょっとしたいざこざが原因で……戦争自体はすぐに終わったけど。 オレも参加してたんだよ。ひどいもんだった。 裏切者が出て、誰が敵で誰が味方かもわかんなくて……」
ユリウスさんの声が、震える。
ユリウス「何度も殺されそうになって……気が狂いそうだった。 戦争は終わったけど、今もオレはまだ…-」
身を切られるようなその声色に、私は……
胸が締めつけられて、思わずユリウスさんの腕に触れる。
ユリウス「……っ」
彼は肩を震わせたけれど、私の手を振り払おうとはしなかった。
ユリウス「さっきは悪かった。 でもわかっただろ? あんまりオレに近づくなよ。 戦争の時の後遺症だよ。無意識にオレは、近づく奴を……」
最後の言葉が聞き取れないまま……
ユリウスさんは私から離れ、その場を立ち去って行った。
(ユリウスさんは、まだ戦争の時のことが忘れられないんだ……)
はりつめた背中を見つめる。
(どうしたら、いいんだろう……)
私はしばらくそこに立ち尽くして、ユリウスさんのことを考えていた…-。