第2話 優しい笑顔

よく晴れた翌日…-。

〇〇「ん……」

身支度をすませ、窓を開けて、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込む。

(この国の空気は、すごく澄んでるんだな)

その時、部屋の扉がノックされた。

〇〇「はい」

ユリウス「……オレ」

(ユリウスさん!?)

慌てて扉を開けると、ユリウスさんが立っていた。

ユリウス「街へ、行くぞ」

〇〇「えっ……?」

ユリウス「視察がてら、案内してやる。ここにいても暇だろ?」

〇〇「あ……はい、行きます!」

突然の申し出に驚いて、声が裏返ってしまう。

ユリウス「元気だな、お前」

(あ……笑った)

初めて見たユリウスさんの笑顔に、胸が弾んだ。

ユリウス「朝メシ食べたら、行くぞ」

〇〇「……はい!」

嬉しさがこみ上げ、私も自然と笑い返していた。

城の中と同じく、街も緑とお花でいっぱいだった。

さわさわと葉を揺らす街路樹の下に、可愛い花が並んでいる。

〇〇「お花や木がたくさんあって、とても綺麗ですね」

ユリウス「ああ、この国にしか生えない植物も多いんだ」

ユリウスさんはそう言って、道に咲く花に目をやる。

(昨日は気難しい人なのかなって思ったけど……)

花に向けるユリウスさんの優しい瞳に、私の胸も温かくなる。

〇〇「何というお花なんですか?」

ユリウス「ラナリス。季節によって花びらの色が変化するんだ」

〇〇「色が変わる……素敵ですね!」

ユリウス「だろ? そっちに咲いてるのは、キャルメリアって言って……」

花のことを嬉しそうに説明してくれるユリウスさんが、なんだか可愛くて……

ユリウス「!」

じっと見つめてしまっていると、彼はハッとした表情になって、顔を赤くさせた。

ユリウス「……なんだよ。人の顔ジロジロと見て」

〇〇「いえ……」

(つい、見つめちゃった……)

ユリウス「……」

〇〇「……」

私達の間に、沈黙が訪れる。

その時…-。

??「ユリウス様~!」

振り返ると、女の子達が複数人、私達の方へと駆け寄ってきていた。

街の女の子1「ユリウス様、今日は視察ですか!?」

街の女の子2「お会いできて嬉しいです~!!」

街の女の子3「今度、私にも香水の調合の仕方を教えてくださいっ!!」

街の女の子2「ずる~い! 私だってユリウス様に教えて欲しい!」

ユリウス「あ……ああ……」

彼に押し迫る女の子達にたじろぐように、ユリウスさんが後ずさりする。

(すごい人気……)

ユリウス「わ……悪いんだけど、今客を案内してるんだ。また今度な」

街の女の子達「え~!!」

ユリウス「じゃあな!」

不満げな声を漏らす女の子達にくるりと背を向けて、ユリウスさんは足早に歩き出す。

〇〇「あ……待ってくださいっ!」

私も慌てて、その後を追った…-。

……

やっとのことで彼に追いつくと……

〇〇「女の子達、残念そうでしたけど……よかったんですか?」

そう言うと、ユリウスさんは困ったように頭を掻いた。

ユリウス「ああいうの……苦手なんだよ」

ぽつりとつぶやかれた彼の言葉に、私は思わず笑ってしまう。

ユリウス「な、何だよ!」

〇〇「いえ……すみません」

ユリウス「……」

顔を赤くしたまま、ユリウスさんが私をにらむ。

その視線すら、なんだか可愛く思えてしまう。

けれど…-。

私はまだこの時は、彼が抱える闇を知らなかった…-。

 

 

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