月9話 冷たい風

ユリウスさんの後ろ姿が遠ざかっていく…-。

〇〇「ユリウスさん……っ! 待ってください」

私が声をかけると、ユリウスさんは立ち止まってこちらを振り向いた。

ユリウス「……何だよ」

(思わず追いかけてきちゃった……どうしよう)

ユリウス「何もねぇなら、行くぞ」

ユリウスさんが、私にまた背を向ける。

〇〇「あの……!」

胸の中で必死に、彼にかける言葉を探す。

〇〇「あの……また一緒に香りをつくりませんか? この前摘んだお花もたくさんあるし」

ゆっくりとこちらを振り向いて、彼は静かに息を吸った。

ユリウス「……悪いけど、今そういう気分じゃねぇんだ」

ユリウスさんに冷たく言われ、私の胸がズキンと痛む。

ユリウス「内通者が出たことで、城内がざわついている。 呼んどいて悪いが……お前も、明日帰ってもらうように手配したから」

〇〇「……っ!」

ユリウス「危ない目に遭わせて、済まなかった」

ユリウスさんの声はとても苦しそうで、私は思わずその瞳を覗き込む。

〇〇「そんな青い顔をしたユリウスさんを置いて……帰れません」

ユリウス「バカ野郎!」

ユリウスさんの大声に、びくんと体が震える。

ユリウス「お前が殺されそうになって……オレどんな気持ちだったか……。 それに……このままお前といると、オレ自身がお前を傷つけるかもしれない」

(えっ……?)

ユリウス「気が気でないんだ。近づく奴全部、敵に思えて…-。 オレは、怖い。無邪気にオレの近くにいるお前を、いつ傷つけるか…-。 もう前みたいに……お前の近くにはいられない」

(そんな……)

ユリウス「いいな。早いとこ、帰れよ」

彼はなおも冷たく言い放ち、今度こそ歩いて行ってしまった。

一人取り残された私の頬に、冷たい風が吹きつける。

一筋の涙が頬を伝った…-。

 

 

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