月8話 傷ついたユリウス

銃声の余韻が、花畑に不穏な空気を漂わせている…-。

(え……)

ぎゅっとつむった目を開けると、ユリウスさんと戦っていたスパイの男が崩れ落ちていた。

??「ユリウス様!」

ユリウス「お前は……」

先程私に向けて銃を構えていた男が、こちらへ駆け寄ってくる。

(どういうこと……?)

ユリウスの従者「申し訳ございません! スパイの情報を得て、奴らの近辺にもぐり込んでおりました!」

スパイの男「俺達の中にも、スパイがいたってことか……ははっ」

スパイの男は、銃声を聞いて駆けつけた他の従者さん達に捕えられた。

(よかった……)

ほっと胸を撫で下ろしていると……

ユリウス「……大丈夫か」

ユリウスさんが、私の傍にかがみ込んでくれる。

〇〇「はい……」

立ち上がろうとするけれど、足が痛くて上手く立ち上がれない。

ユリウス「……」

その様子を見たユリウスさんが、私をふわりと抱き上げた。

〇〇「ユ、ユリウスさん……!」

ユリウス「……ごめんな。死なせるとこだった」

(ユリウスさん……)

ユリウスさんは、悲痛な声でそう言って、私をきつく抱きしめた。

彼に抱かれたまま、私は城へと戻った…-。

それから数日後…-。

この国に来て初めて、太陽がその姿を隠している。

あれ以来、ユリウスさんとまともに話ができていない。

(ユリウスさん、どうしてるんだろう)

ユリウスさんに安静を命じられ、私は部屋から出ることも許されないでいた。

―――――

ユリウス『……ごめんな。死なせるとこだった』

―――――

彼の悲しそうな声が、頭の中で何度も繰り返される。

(会いたい……)

窓辺にもたれ、そっと胸に手を当てると、突然扉が開かれた。

ユリウス「……怪我の具合は」

〇〇「ユリウスさん!」

久しぶりに見るユリウスさんの顔は、少しやつれているようだった。

〇〇「ユリウスさん……大丈夫ですか? 顔色が……」

ユリウス「……!」

思わず伸ばしてしまった私の腕を、ユリウスさんは乱暴に振り払った。

〇〇「……っ」

ユリウス「……悪い。 最近、ちょっと気が立ってて」

抑えきれない苛立ちが、彼から伝わってくる。

ユリウス「……敵のスパイがあいつだけとは限らない。お前は部屋から出るなよ」

きつく戒めるようにそう言って、ユリウスさんは私の部屋から出て行った。

〇〇「ユリウスさん、待って……っ!」

気がつくと、私の足は彼を追いかけてしまう。

足早に遠ざかっていくユリウスさんの後ろ姿が、消えてしまいそうに見えた…-。

 

 

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