第3話 凪の海のような

晴天の空で太陽が、今日もさんさんと輝いている。

(暑い……)

初日に陽影さんと祭を一緒に楽しんでから、早数日の時が経とうとしていた。

夏越の祭はそれは見事なもので、私はすっかり異国情緒あふれるこの国に夢中になった。

でも……

(陽影さん、今日も街の人達と一緒に出掛けてる)

陽影さんは面倒見のいい性格のせいか、気付くと彼を慕う人々と共に城から姿を消している。

(でも、今日のお昼には特別な祭事で海に集まることになってるから、会えるかな)

私も、賓客としてその祭事に列席して欲しいと、陽影さんのお父様に言われていた。

(そろそろ行かないと)

……

祭事は、海を臨む浜辺で巫女が海に祈りを捧げる、これまでとは打って変わった神聖なものだった。

小一時間ほどの後、ようやく全て儀式が終わると、私の隣にいた陽影さんの元にお父様がやってきた。

陽影の父「陽影、相変わらず街の若い衆とばかりつるんでいるそうじゃないか」

陽影「あ? なんだよ親父、別にいいだろ」

陽影の父「悪いとは言っておらん、ただ年頃になっても浮いた噂の一つもないと心配しておったが……」

つと視線が私に向き、お父様は口元に蓄えたひげに手をやり、微笑んだ。

陽影の父「……ようやくお前も一人の女を見初める気になったのか?」

〇〇「……?」

すると、私が話を理解する前に、陽影さんが立ち上がり…―。

陽影「ちげーし! 親父ほんとふざけんな、消えろっ!」

陽影の父「陽影! お前はまたそんな言葉使いを…―」

陽影「おい、もう行くぞ!」

その荒っぽい口調に驚く間もなく、陽影さんに手を引かれ……

〇〇「ま、待ってください」

陽影「うるさい、もう祭事は終わった、こんな堅苦しい所いられるか!」

〇〇「は、はいっ」

陽影さんはお父様の方を振り返ることもなく、私を連れて大股でその場から去ってしまった。

浜辺から遠ざかるように歩き、平原へ出たところで、陽影さんはふと足を止めた。

陽影「……」

(陽影さん?)

私を見る陽影さんのぶっきらぼうな視線に、かすかに戸惑いが見える。

〇〇「……どうかしましたか?」

陽影「すまん。オレのことで勘違いとかされて」

〇〇「い、いえ。私は大丈夫です。それよりお父様とは……?」

陽影「別に、親父にも悪気があるわけじゃねーのは、わかってんだけど……」

そこまで言って顔を酷く歪めると、陽影さんはしばらく視線を伏せた。

そして…―。

陽影「ああ、もう、面倒くせーなっ!」

その場に音を立てて腰を下ろすと、遠い目をして、来た道を眺める。

陽影「今やれることに夢中になって、何が悪いんだよ……。 オレを慕ってくれる奴らがいる、ならその気持ちに応えて面倒みてやって……いいことじゃねーか」

強い日差しを流れる雲が遮って、天から落ちた陰が陽影さんの表情を隠す。

(陽影さんのこんな表情……初めて見た)

(そういえば、祭の初日でも少し寂しそうな目をしていたような……)

私は気になって……

〇〇「何かあったんですか?」

陽影「は、どうして?」

瞳を見開き、陽影さんは不思議そうに私を見つめる。

〇〇「なんだか、寂しそうな顔、してたので……」

陽影「……変な女」

陽影さんが、面白そうに目を細める。

けれどその瞳は、凪の海のように、いつになく静かだった。

陽影「別に聞きたきゃいいけど……オレ、さ…―」

そうつぶやいて、陽影さんは日の陰った空を仰ぎ見て話し出した…―。

 

 

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