第5話 チョコレートに勇気をこめて

ショコラショップを出るころには、日が傾き始めていた。

ジョシュア「○○、これを」

そう言いながら、ジョシュアさんが私に紙袋を差し出す。

○○「あ……ありがとうございます」

私は少しためらいながら、チョコレートを受け取った。

ジョシュア「……。 たとえ自分の気に入らない贈り物をもらったとしても、笑顔でお礼を言わなければならない」

○○「え…ー」

ジョシュア「……って、いつもだったら言うところだけど、君にそんな顔をさせるオレも悪いね。 ……それじゃない方がよかったかな?」

ジョシュアさんは私の顔を覗き込むように、そっと背を屈める。

○○「いえ!違うんです、そういうわけじゃ…ー」

慌てて首を横に振り、笑顔を作る。

○○「嬉しいです…… 大切にいただきますね」

言葉とは裏腹に、複雑な感情が胸にこみ上げる。

(ジョシュアさんの思い出のチョコレートをもらえて本当に嬉しい。けど……)

(……私も、ジョシュアさんに何か贈り物をしたい)

けれど、何もかもが完璧な彼に贈るに相応しい物が、ちっとも浮かばなかった。

ジョシュア「すっかり夕方になってしまったね。疲れただろう? 一日中、付き合わせて悪かったね」

(あ……)

ジョシュアさんは私の腰に手を回し、優しくエスコートしてくれる。

ジョシュア「城まで送っていこう」

ジョシュアさんの穏やかな瞳が、私の歩みを促す。

(もう少しだけ…… 一緒にいたい……)

○○「ジョシュアさん…… もしよろしければ、この後……」

ジョシュア「え、何か言った?」

雑踏に紛れ、私の声は届かなかったらしい。

○○「いえ、あの……」

(この気持ちを、どう伝えれば……)

けれど、肝心な言葉が言えずに口ごもってしまう。

ジョシュア「遠慮しなくていい。ショコルーナの招待を受けたなら、宿泊先は同じはずだから」

そう言って、ジョシュアさんが私に手を差し出した。

流れるように完璧なエスコートを受け、甘いときめきが胸に広がっていく。

(今日はこのまま、お城へ帰ろう……)

思いを定め、そっとジョシュアさんと手を重ねると…ー。

ジョシュア「……しばらく会わないうちに、すっかりエスコート慣れしたんだね」

○○「えっ?」

ジョシュア「……少し妬けるな」

そうつぶやくと、ジョシュアさんは私から目を逸らす。

(ジョシュアさん……?)

普段は見ることのできない姿に、胸の鼓動が甘く音を立てた。

ジョシュア「……ごめん、君を困らせたね」

ジョシュアさんはきまり悪そうに、そっとはにかんでみせる。

ジョシュア「そうだ、このパッケージに…ー」

彼はチョコレートの箱を取り出し、私に見せてくれた。

そこには、ショコルーナの美しい飾り文字が記されていた。

○○「なんて書いてあるんですか?」

そう尋ねると、ジョシュアさんは静かに微笑み……

ジョシュア「一粒のショコラに、ほんの小さな勇気を乗せてー」

(ほんの小さな勇気……)

ジョシュア「素敵な言葉だと思わない?」

○○「はい……」

(今の私に、必要な言葉だ……)

ジョシュア「だからオレは…… この言葉の恩恵に与ろうと思う」

○○「え……?」

暮れなずむ空を背に、ジョシュアさんが言葉を紡いだ。

ジョシュア「明日…… 君の時間を、オレにくれないかな?」

○○「ジョシュア……さん?」

そう言ったジョシュアさんは気品に溢れていて、やっぱりとても美しいのに……

彼の瞳は、ほんの少しだけ不安そうに揺れている気がしたのだった…ー。

 

 

 

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