第5話 仕掛けられた罠

〇〇が記録の国レコルドを訪れてからしばらくのこと、その問題は起きた。

フォルカー「これは一体どういうことだ! 記録の情報が書き換えられている? 改ざん? いつ、どこで……」

フォルカーは、部下から手渡された書類に目を通しながら、頭の中で膨大な情報と、あらゆる可能性を並べ整理していく。

エリック「……どうしますか。大変な事態かと思いますが」

エリックの口元がわずかに緩んだのを見て、フォルカーは表情を歪める。

フォルカー「……」

その時、緊迫した雰囲気の中で扉を叩く音が聞こえた。

〇〇「……フォルカーさん、私です」

フォルカー「っ……!」

〇〇「あの、入っても大丈夫でしょうか?」

フォルカーは自分を落ちつかせるように目を閉じ、眼鏡をかけ直した…-。

フォルカーさんの仕事を見学させてもらうことになっていた私は、彼の元を訪れた。

〇〇「あの、入っても大丈夫でしょうか?」

フォルカー「……ああ、構わない」

一拍の間があり、部屋の中からフォルカーさんの声が聞こえた。

〇〇「失礼します……」

けれど、入室した途端その場に張り詰めた緊迫感に驚いた。

〇〇「あの、お邪魔でしたら……」

エリック「いえ、特に構わないのではないでしょうか。そうですよね? フォルカー王子」

(この人は……確か、エリックさん)

エリックさんは、私とフォルカーさんを交互に見やり、にやりと笑みを浮かべた。

フォルカー「……ああ」

(なんだか……おかしな雰囲気)

嫌な予感と居心地の悪さを感じつつも、立ち去るに立ち去れずにいると……

フォルカーさんが、ひとつ咳払いをして話し始めた。

フォルカー「とりあえず話を戻す。しかし、だ……。 いつもの報告は抜けていた。何故何も言わなかった」

エリック「いえ、私は報告しましたよ。書面にしていつも通り提出しています」

フォルカー「……」

フォルカーさんは、その返答に苦々しそうな顔を一瞬だけ見せる。

エリック「見られていないのなら、見落とされたのでしょう。 人間、完璧は難しいですからね。以後、気をつけられては?」

嫌味のように聞こえる物言いに、私もわずかに顔を曇らせてしまう。

フォルカー「……」

フォルカーさんは、難しい顔で何かを考えているようだった。

若い事務官1「し、しかしフォルカー王子が見逃すなんて考えられません!」

若い事務官2「そうです。普段からフォルカー王子を目の敵にしていましたし、あなたが仕組んだんじゃないですか」

エリック「言いがかりはよして欲しい。何か証拠でもあるのか?」

若い事務官2「でも……!」

フォルカー「やめろ」

フォルカーさんの通る声が、一触即発の状況を制した。

フォルカー「皆、静かにしろ。この問題については俺が対処、処理する。 情報の管理、書類のチェック体制についても今一度見直しをかける。 併せて考えておく。以上だ。今日は解散」

若い事務官2「あ……そんな!」

エリック「くくっ……」

エリックさんの不敵な笑い声が、私の耳に滑り込んできた…-。

……

皆を下がらせたフォルカーさんは、自室に戻ると思いため息をつきながら深く椅子に腰掛けた。

(フォルカーさん……)

かける言葉がわからなかったけど、彼の辛そうな様子に意を決して口を開く。

〇〇「フォルカーさん……大丈夫ですか?」

フォルカー「……!」

深く考えを巡らせていたのか、我に返ったようにフォルカーさんが顔を上げる。

フォルカー「……ああ、ついでに灯りをつけてくれるか? 悪い。いつの間にか、暗くなってきたようだな」

気付けば、部屋は夜の薄暗い影に支配されようとしていた。

〇〇「そうですね。わかりました」

頷いて、言われた通り灯りをつける。

淡い灯りが、フォルカーさんの蒼い髪を切なげに照らし出す。

いまだ沈み込んだ顔をしている彼の表情を見ると、心がひどく軋んだ。

(何か力になりたい……)

私は…―。

〇〇「あの、夕食はまだですよね。良ければ……ご一緒できませんか?」

気分を少し変えることが出来ればと、私はおずおずと問いかけた。

すると、フォルカーさんはわずかに微笑んでくれて……

フォルカー「……ああ、喜んでそうしよう」

陰りのあるフォルカーさんの顔が、強く胸を締めつける。

悲哀の表情が落とす影は、その聡明な顔をより際立たせていた…-。

 

 

 

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