第2話 人込みの中で

甘い香りが満ち満ちるショコルーナで、砕牙さんと再会したけれど……

砕牙「ふむ……」

彼は何か思案するように、目を細める。

(砕牙さん、賑やかなのは苦手なのかな?)

砕牙「そのような顔をしなくともよい。人の多さに少々驚いたが、困っているわけではない」

○○「そうですか……」

(それなら、よかった……)

砕牙「うぬとも会えたしな」

○○「え……?」

砕牙「久しぶりにうぬの顔が見れて、嬉しいぞ」

○○「砕牙さん……」

思いがけない言葉を聞いて、頬が熱くなっていく。

砕牙「うぬは違うのか?」

○○「嬉しいです。砕牙さんとはなかなかお会いできないので」

砕牙「ほう、寂しく思うてくれていたか?」

○○「寂しいなんて……そんな……」

(そんな風に思っていいのかな)

砕牙「わかっておる。そう赤くなるな。 さて、来てしまったものは仕方ない。 うぬも城へと向かうのだろう?」

○○「はい」

私の返事を聞いて、砕牙さんは満足げに一つ頷いてみせた。

砕牙「この人込みだ。共に参らぬか?」

○○「はい、ぜひ……!」

砕牙「そうか。ではゆるりと参ろうぞ」

優しく瞳を細める砕牙さんの長い尻尾が、ふわりと揺れた。

○○「そういえば……砕牙さん、お洋服なんですね」

砕牙「ああ。いつもの装いだと目立ちすぎるのでな……」

○○「とても新鮮です」

(雰囲気が違って……少しドキドキする)

その時…―。

砕牙「ん?」

砕牙さんは驚いたように目を瞬かせると、ゆっくり後ろを振り返る。

○○「どうしたんですか?」

砕牙「いやなに、この者がな……」

○○「この者?」

砕牙さんの視線の先へと目を向けると…―。

小さな男の子が、砕牙さんの尻尾を両手で抱きしめていた。

男の子「……」

砕牙「こら、そう抱きつくでない」

砕牙さんは優しく尻尾を振り上げる。

けれど男の子は楽しそうに尻尾を手で追いかけ、再び掴んだ。

砕牙「これはどうしたことか……」

○○「迷子でしょうか?」

砕牙「おぬし、親はどうした?」

男の子「……」

男の子は何も答えず、砕牙さんの尻尾を触っている。

砕牙「よさぬか……」

○○「砕牙さんの尻尾、たしかに触りたくなりますね」

(ふわふわして気持ちよさそう……)

私も思わず、砕牙さんの尻尾に手を伸ばしてしまう。

艶やかな白銀の尻尾は柔らかくてふかふかしていた。

砕牙「こら……うぬ等、そろいもそろって……。 くすぐったいではないか」

砕牙さんは私達の手から逃れるように、尻尾を横に振り上げる。

○○「あ……ごめんなさ…―」

私は慌てて手を引っ込めるけれど……

男の子「ふかふか! ふかふか!」

男の子は、また手から離れた尻尾を手で追いかける。

そんな健気な姿に根負けしたのか、彼は尻尾を男の子の方へなびかせた。

砕牙「まったく……」

(砕牙さん、優しいな……)

彼の優しさを含んだ声が、私の胸を温かくした…―。

 

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