月最終話 彼からの贈り物

砕牙さんとチョコレート以外の贈り物をし合うことになり、私達は店を見て回る。

(砕牙さん、どんな物なら喜ぶんだろう……?)

(きっと一番喜びそうなのは新しいカカオだけど、それは難しいし……)

砕牙「用意は出来たか?」

〇〇「え……? 砕牙さんは……」

砕牙「我はもう用意ができておるが」

(いつの間に……)

悠然とたたずむ砕牙さんに、慌てながらお願いをする。

〇〇「すぐ決めますので、もう少しだけ待っててくれませんか?」

砕牙「いくらでも待とう。うぬの準備ができたら呼んでくれ」

砕牙さんは小さく笑い声を上げ、私から離れていった。

(砕牙さんに笑われたような……)

慌てている自分が、少し恥ずかしくなる。

〇〇「どれがいいかな……」

並べられた品物をくまなく探していると、その中で、ふと気になる物を見つけた。

(あ……!)

〇〇「これなら喜んでくれるかな?」

ふと、砕牙さんを振り返る。

彼の銀色の髪が日に透けて輝いていた…-。

……

ようやく砕牙さんへの贈り物を買い終え、私達は宿へと戻ってきた。

〇〇「砕牙さん、贈り物の交換は……?」

扉の前まで来て、私は彼を見上げる。

砕牙「扉を開けてみればわかる」

〇〇「扉?」

不思議に思いながら、私は扉を開けた。

そこには…-。

〇〇「これ……」

ソファーの上に大きな狐のぬいぐるみが置かれていた。

私はソファーへと駆け寄ると、ぬいぐるみを手に取った。

〇〇「このぬいぐるみって、砕牙さんが……?」

砕牙「ああ」

砕牙さんは私をソファーに座らせ、その隣に腰かけた。

私からぬいぐるみを受け取ると、彼は改めて差し出した。

砕牙「うぬは我の尻尾を気に入っていたようだったからな。 これがあれば好きなように触れられるであろう?」

〇〇「砕牙さん……」

砕牙「昨日からうぬと共にいて、これがよいと思ったのだ。 今日付き合わせた礼だ。 感謝の意味なら、うぬも受け取りやすかろう」

(感謝の意味だったら? どういう意味だろう?)

その言葉が気になったものの……

スチル(ネタバレ注意)

〇〇「この子、砕牙さんに似ていますね」

砕牙「そうか……?」

〇〇「はい」

見れば見るほど、砕牙さんのようなぬいぐるみが愛おしくなり、弾む心が抑えきれない。

砕牙「ならば……これを見たら、うぬは我を思い出してくれるか?」

〇〇「思い出す?」

砕牙さんは一度瞳を閉じると、深く息を吐き出した。

砕牙「……感謝などで心を誤魔化すのはよくはないな」

真摯で柔らかな眼差しが、私にふっと向けられる。

砕牙「うぬにはもちろん感謝もしているのだが……。 本当は我がうぬのことを特別に想うていると言ったら……うぬは驚くか?」

〇〇「え……?」

砕牙「戯言だと、聞き流してもよい……。 だが、我の中でうぬへの想いが大きくなるのを止められぬのだ」

〇〇「砕牙さん……」

胸の鼓動が次第に早くなっていくのを感じる。

砕牙「うぬを困らせるつもりはない……」

〇〇「嬉しいです」

砕牙「だがうぬは……」

〇〇「私は、砕牙さんが私のことをどう思っているのか気になっていました。 一緒にチョコを食べようと言ってくれた時も……」

―――――

砕牙『ならば〇〇、共にチョコレートを食べてみるか?』

〇〇『え……?』

―――――

〇〇「だから嬉しいです……」

砕牙「そうであったか……」

砕牙さんは驚いたように瞳を見開くと、片手で口元を覆った。

砕牙「なんという勘違いを……」

〇〇「勘違い?」

彼の顔が赤くなっていく。

砕牙「うぬには別に想う者がいるのだと思うてた。 だから、共にチョコレートを食べることを迷ったのだと……」

〇〇「え……?」

(そんなことを、考えてくれていたなんて……)

砕牙「笑ってくれて構わぬぞ……」

そうつぶやくと、砕牙さんはうつむいてしまった。

(砕牙さんの耳が垂れてる……?)

(耳まで赤く染まって、なんだか可愛い……)

〇〇「私からも贈り物をさせてください」

私は砕牙さんのストールに、贈り物で買ったストールクリップをつけた。

〇〇「ストールクリップです。砕牙さんの服にとてもよく合いそうだったので」

砕牙「これは……」

白い、ふわふわの毛でできたクリップ…-。

砕牙さんはクリップを触りながら、少し困ったように眉を寄せた。

〇〇「……砕牙さんの尻尾と似ていると思って……」

砕牙「うぬは本当に我の尻尾が気に入ったようだな」

〇〇「でも、やっぱり砕牙さんの尻尾が一番手触りがいいです」

砕牙さんは目を見開くと、吹き出し笑い始めた。

砕牙「まったく、うぬは……」

〇〇「私……変なことを言いましたか?」

砕牙「いや……。 うぬは素直でよいな。 うぬの傍におると、退屈せぬ」

砕牙さんはなおもおかしそうに笑い続ける。

砕牙「我の代わりにと思いその狐を買ったが……。 もしや、ぬいぐるみでは物足りぬか?」

彼の逞しい腕が私の方へと伸びる。

〇〇「っ……!」

肩を抱き寄せられ、彼の額が私の額と重なった。

吐息がかかる距離に、胸の鼓動がうるさく高鳴っていく。

砕牙「うぬが望むなら……どこまでも付き合おうぞ」

〇〇「それは……」

緑色の瞳がいたずらめいた輝きを放つ。

砕牙「うぬはそう言いたいのだと思うたのだが?」

〇〇「っ……」

彼の顔が、私の顔に近づいて…-。

〇〇「ん……」

重ねられた唇から、甘い幸せがいっぱいに広がっていった…-。

 

 

おわり。

 

 

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