チョコレートの国・ショコルーテ 白の月…-。
街はチョコレートの甘い香りと、赤やピンクの優しいオーナメントに包まれていた。
私は、アンタレスさんに呼び出されて街へ出ていた。
(確かこの先の広場近くで、待ち合わせのはず……)
約束の場所へ足を向けていると……
アンタレス「……」
人混みの中でひときわ目をひく、すらりとした長身が目に入った。
赤みがかった艶やかな髪が、甘い風に流されて美しくなびく。
〇〇「アンタレスさん。お待たせしてすみません」
早めに来たつもりだったけれど、すでに約束の人の姿が見えて足早に駆け寄った。
するとアンタレスさんは、さらりと髪をかき上げ笑みを浮かべた。
アンタレス「いや、待ってなどいないよ。 俺が呼び出したんだから、先に来ているのは当たり前のことだし」
さらりとアンタレスさんは言ってのけて、小さく笑った。
アンタレス「で、わかってるよな? 今日はデートだから」
〇〇「デート……」
アンタレス「そう、デート」
思わずつぶやいてしまった言葉をアンタレスさんは繰り返してウインクをする。
アンタレス「『愛の日』の時期にデートをする意味、わかってるよなってこと」
〇〇「……愛の日?」
アンタレス「知らないのか。身近な人に愛を伝える日って言われてるんだ」
(えっ……)
その言葉に心をざわつかせていると、アンタレスさんが私の目の前に……
アンタレス「これ、やるよ」
真っ赤な薔薇を一本、丁寧な仕草で差し出した。
〇〇「え……?」
アンタレス「薔薇を一本だけ贈る意味……知ってるか?」
〇〇「……いいえ」
アンタレス「じゃあこのデートが終わる頃、また教えてやる」
そう言って美しい瞳を細めて微笑むアンタレスさんを前に、胸が弾むのを感じていた…―。