アンタレスさんが、チョコを作り始めてから数時間後…-。
甘い香りに充ち満ちる厨房で、期待に胸膨らませて待ちわびていると……
アンタレス「完成だ!」
冷蔵庫の前に立ち、仕上がったチョコを確認していたアンタレスさんが、嬉しそうに声を上げた。
〇〇「お疲れ様です……!」
私も嬉しくなって、アンタレスさんの傍に駆け寄る。
すると、さっとアンタレスさんは手元のチョコを冷蔵庫に仕舞ってしまい……
アンタレス「すぐに食べさせてやる。だからテーブルについて、いい子で待ってな?」
〇〇「っ……」
アンタレスさんの手が、ふわりと私の頬を撫でてくれる。
格別に甘い香りのする指先が鼻先をかすめて、ひどく鼓動が速まった。
(完成品がすごく気になるけど……)
〇〇「わかりました。待っています」
言われた通り、レストランスペースに移り待つことにした。
店内すべてが貸し切りにされた店で、一人テーブルに座りアンタレスさんを待つ。
はやる気持ちで待っていると…-。
アンタレス「待たせたな。ようやくできた」
アンタレスさんは、とても可愛らしい器を持ち姿を現した。
その器の上には、華やかにデコレーションされたチョコレートが載せられている。
〇〇「わあ……素敵」
感嘆のため息をこぼしながら、うっとりと器の中のチョコを見つめる。
アンタレス「食べてみろ」
〇〇「はい。でも……食べるのがもったいないくらいです」
そう言うと、アンタレスさんは困ったように微笑んだ。
アンタレス「食べてもらうために作ったんだからな」
〇〇「っ……そ、そうですよね。 じゃあ、いただきます」
フォークを手に取り、果実の香りのするソースをそっとからめて、チョコを一つ、口に入れると……
〇〇「んっ……おいしい。それにこれ……」
覚えのある風味に、ぱちりと一つまばたきをする。
アンタレス「気づいたか? 昨日のスパークリングワインを入れたボンボンショコラだ」
〇〇「……!」
スパークリングワインの風味が広がる甘い味わいに、感激して胸がいっぱいになる。
アンタレス「昨日、チョコを食べてすごく幸せそうな顔してただろ。 あれ、気に入らなくてな」
〇〇「え……?」
アンタレスさんは、いつもは見せないような困った顔をして、わずかに頬を赤く染めている。
アンタレス「俺じゃなくて、ショコラティエがアンタを笑顔にさせてると思ったら、つまらない気分になった。 だから俺が、自分で作って自分の力でアンタを笑顔にさせてやりたいと思ったんだ」
〇〇「アンタレスさん……そんなふうに……」
思いもよらない素敵な独占欲に、やはり胸がいっぱいで……
今にもはち切れてしまいそうになり、目頭が熱くなる。
〇〇「大事に食べないといけませんね……」
アンタレス「……そう言うと思ったんだ」
〇〇「えっ……?」
アンタレスさんはいつの間に用意していたのか、背中から小さな箱を差し出した。
アンタレス「チョコはまだたくさんある。だから、きちんと俺の愛、全て食べろよ? アンタに、笑顔のメイクを施していいのは俺だけだ。ほら、もう一つ……」
〇〇「アンタレスさん……」
アンタレスさんが、甘く大人な味のするチョコを差し出してくれる。
〇〇「……はい」
(頬が熱くて鼓動がこんなにも速まるのは……このワイン入りのチョコのせい?)
そんなふうにも自分を誤魔化しながら、また一つ、甘いチョコを口に含んだ。
アンタレス「そうだ。最後に教えてやるって言ったあの意味……一本の薔薇を贈る意味」
〇〇「……なんですか?」
アンタレス「『あなたしかいない』……」
〇〇「っ……!」
艶やかな笑みがその言葉を紡げば、一瞬にして私も……アンタレスさんしか見えなくなる。
アンタレス「俺の愛、伝わったか?」
〇〇「……はい」
アンタレス「そんな返事じゃ伝わらないな。返事は……キスでしろよ」
〇〇「っ……!」
驚きながらも私は、艶めいた瞳で顔を寄せるアンタレスさんに、思いを伝えるようにそっと近づいて……
甘い甘い、熱のこもったキスで返事をしたのだった…-。
おわり。