月SS あの花畑で……

罪状は取り消され、〇〇と共に謁見の間を退いた後…-。

彼女への想いは、もはや抑えきれないほどに昴っていた。

ラス「〇〇……」

罪過の花の如く、穢れを知らぬ美しい人…-。

甘く香るしなやかな髪や、細く柔らかな体……

一度触れてしまえば、彼女のことしか考えられなくなる。

ラス「やっぱり、キミもオレと結ばれたかったんだ?」

そう耳元で囁けば、〇〇がはっと息を呑んだ。

(今すぐ、キミが欲しい……)

彼女の腰を抱き寄せて、柔らかなな肌に唇を這わせた。

その時…―。

〇〇「それなら……どうして、ちゃんと向き合おうとしてくれないんですか? あなたは、何をそんなに恐れているんですか……?」

細く震える声で、〇〇が問いかけてくる。

(え……?)

ラス「……オレが、恐れているもの?」

顔を上げれば、真剣な目をした彼女と視線が絡まる。

(〇〇……)

ラス「形のないもの」

その真剣な目を見つめていると、自然と口から言葉がこぼれていた。

体を重ねるより他に、想いを通わせるすべを知らなかった。

ラス「体は正直だよ。すきなところに触れてあげれば、ちゃんと健気に反応する。 でも……形のない愛は、オレの手に負えない」

(ああ、そうだ……オレは、怖い)

ラス「この手で触れられない幸せなんて陽炎のように儚い。 どんなに手を伸ばしても……いずれ消えてしまう。 そんな不確かなものを求めて傷つくぐらいなら、いっそ……」

けれど彼女は、その温かな手を差し伸べて……

〇〇「それなら……私があなたに心を渡します」

ラス「え……?」

慈しむように、オレの手に触れてくれた。

そして、彼女は不安を漏らすオレに温もりと言葉をたくさんくれる。

〇〇「決まった形なんてありません。どんなに不器用でも……。 二人で心を交わしながら、ゆっくりと築き上げていければ、それで……」

(ああ……そうか――)

彼女の優しい声が、オレの恐れを溶かしていく…-。

ラス「いつか……消えてしまうのかもしれない。 この選択を、後悔する日がくるかもしれない。 だけど、オレは……。 この心も、体も……オレのすべてで、キミを愛してる…-」

愛しいと思う心のままに、彼女をきつく抱きしめた…-。

……

あれから数日後、城では舞踏会が開かれ……

パーティーを抜け出したオレは、〇〇を連れて薄暗い空き部屋へと逃れた。

ラス「おいで、ここなら見つからない」

〇〇「えっ?」

オレは〇〇と共に、クローゼットに身を隠す。

すると、オレ達を追う足音が少しずつ遠ざかっていって…-。

〇〇「もう。ラスさんが突然あんなことを言うから……」

薄暗いクローゼットの中で、〇〇が恨めしげにオレを見上げる。

ラス「そもそも、オレと婚約したって言い出したのはキミの方でしょ?」

(妻に迎えるなら、〇〇しかいない)

〇〇「あれは、ラスさんを助けるための嘘で……」

〇〇はそう言うと、唇をぎゅっと引き結ぶ。

ラス「そんな顔しないでよ……二人きりになるの、久しぶりなのに」

〇〇の顔を覗き込むと、すねたような瞳がオレを見上げた。

そんな顔も可愛くて、このまま口づけてしまいたくなる。

(気持ちが軽く見えてしまったかな)

(弁明しなくちゃと思うけど……そんなふうに可愛くすねるのはずるいよ)

ラス「プロポーズ、ちゃんとオレからした方がいい?」

〇〇「っ、知りません……」

彼女は照れてそっぽを向く。

(キミが怒っても、可愛いだけだ)

言葉にできない愛おしさが、胸を甘く締めつけた。

ラス「あーもう……可愛いなぁ。わかったよ、それじゃ……もう一度、あの花畑に行こう? あの場所で、キミへ永久の愛を誓うよ」

〇〇「本当ですか……?」

オレの言葉で、彼女の瞳に喜びの色が浮かぶ。

(だから、キミのすべてをオレに託して…―)

〇〇の唇を、幾度か優しく啄み……

やがて耐えきれず、奪うように深く唇を重ねた。

触れた傍から、〇〇の肌がいじらしく熱を帯びる。

今や、熱くたぎるオレの欲情は、彼女だけに向けられ……

体と心を一つに溶けあわせるように、〇〇を甘く求め続けた…-。

 

 

おわり。

 

 

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