第2話 鳥居の先

砕牙さんの用意してくれた輿に揺られながら、私は天狐の国・伊呂具の本殿へ向かっていた。

(砕牙さんが迎えに来てくれてよかった)

そう思いながら、ふと輿の外を覗く。

(えっ!?)

砕牙「外がそんなに気になるのか? 狐にでもつままれたような顔をしているぞ」

私の頬に顔をそっと寄せ、砕牙さんも外を覗く。

○○「い、いえ、すごい数の鳥居だと思って」

流れていく景色の中に、途切れることなく鳥居が並んでいる。

砕牙「……これは、結界の役割を果たすのだ」

砕牙さんは整った唇の口角を少しだけ上げて、少し得意げにそう言った。

(結界?)

砕牙「ははは、うぬは子どものようだな。そんなに珍しいのか?」

○○「……っ、別にそんなじゃ」

砕牙「否定せずともよい。ずっと鳥居を見ていても構わぬぞ」

(完全に子ども扱いされてるのかな……恥ずかしい)

砕牙「……うぬは可愛いのだな。 無邪気で愛らしいおなごだ」

○○「え……?」

砕牙さんの大きな手が私の髪にそっと触れた。

そのまま優しくさするように撫でられ、鼓動が速まっていく。

○○「……っ」

砕牙「ははは、顔が真っ赤だぞ?」

こちらを覗き込んでくる翡翠のような目に、思わず顔をさらにうつむかせてしまう。

○○「そ、それより、結界というのは?」

砕牙「ん? ああ、それは……」

砕牙さんはそっと口を開くと、輿の外に目線を向けた。

砕牙「我の国には、伊薬と呼ばれる生薬を調合した伝来の薬があってな。 その薬を調合するために、皆がいろいろな地域や国へ出向いているのだ。 その間にも、薬を求めて人がたくさんやって来るのだが、全ての人を受け入れていては国が回らん」

○○「だから結界を張っているんですね」

砕牙「うむ。故に……選ばれた人間以外は、この鳥居を越えても永遠に我の国にはたどり着けぬのだ」

○○「選ばれた人間?」

砕牙「ああ。国から正式に招待を受けた者だけが、伊呂具へたどり着くことができる。 うぬは、我に目覚めをくれたもの……無論、歓迎しよう」

砕牙さんがそう言った瞬間、今まで揺れていた輿がぴたりと止まった。

砕牙「では、参ろうか」

細く長い指が私にそっと差し出される。

(綺麗な手……)

その手に、思わず見とれてしまう。

砕牙「手を取らぬのか? 姫」

○○「あ、ありがとうございます」

意を決して手を掴むと、砕牙さんが優しく微笑んでくれた。

けれどその後すぐに、わずかに険しい表情となる。

砕牙「……この声は」

○○「え?」

何やら、人々がざわめく声が聞こえてくる。

(……何だろう?)

砕牙「まぁ、よい。ひとまず出るとしよう」

○○「は、はい」

不穏な空気を感じつつも、私達は輿を降りたのだった…―。

 

 

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