第1話 晴れた雨

天狐の国・伊呂具 蒼の月…―。

木々に緑が生い茂り、澄んだ空気に動物達の息づかいが優しく響く。

○○「不思議な天気……」

空には太陽が出ているのに、雨はしとしとと降り続いている。

(それに、どこか不思議な雰囲気……)

足元を取られないように、険しい山道を教えられた通りに歩いていく。

(確かこの先で、落ち合えるはずだったけど、合ってるよね?)

すると、突然、さわりと空気が不可思議に震えた。

??「大丈夫か?」

○○「え……?」

どくんと体の奥が震え、風や音がぴたりと止む。
顔を上げると……

砕牙「我が招待したと言うのに、不自由な思いをさせたようで申し訳なかった」

○○「砕牙さん!」

切れ長の美しい目が、美しい孤を描いて細められる。

妖しげで美しい、不思議な雰囲気をまとった人が、そこに立っていた。

砕牙「うぬを迎え入れようと思うばかりに、雨がついてきたか」

○○「え……?」

砕牙「我は雨を操ることができる。この霧雨も、うぬの来訪を喜んでいるのだろう」

見上げた砕牙さんの手にある和傘が、雨を弾いてとても美しい。

砕牙「迎えを待たせておる。これ以上濡れぬうちに、早く参ろう」

○○「迎え……?」

砕牙「さあ」

傘の中に一緒に入るよう促され、私は頷いた。

険しい山道をまるで平坦な道のように軽快に砕牙さんは、歩いていく。

(背……高いな)

無意識にそんなことを考えていると、予期せず視線が絡んだ。

砕牙「寒くはないか」

○○「は、はい」

砕牙「輿を待たせておる。中は温かいだろう」

○○「ありがとうございます」

向かっていくその先には、黄金の紋がついた大きな輿が見えた。

(立派な輿……)

こうして私達は輿に揺られ、伊呂具城へと向かったのだった…―。

 

 

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