空が薄らと明るくなり始めている…-。
ご来光まで、あともう少し。
ケーブルカーが止まってしまうアクシデントがあったけれど、俺と〇〇は、無事に展望台に到着することができた。
エドモント「ご来光もきちんと見えるし、ここでなら二人でゆっくり見ることができる」
大きな木の後ろに、二人だけ入れるスペースがあり、俺はそこに〇〇を案内した。
〇〇「すごい……! なかなか、ここに気づくことはできないと思います」
エドモント「ありがとう……じゃあ、ここでゆっくりご来光を待とう」
(〇〇、すごく嬉しそうだ)
(やはり、事前に確認をしておいてよかった)
彼女を見つめながら、数日前のことを思い出す…-。
数日前…-。
俺は、公務の合間をぬって展望台を見学にきていた。
(当日は、ここにたくさんの人々が訪れる)
(〇〇に負担をかけたくはない。そのためにも、よりよい場所を確保しなければ……)
俺は、頭の中でご来光をシミュレーションする。
(東の方角は、きっと人が集中してしまう。そうなると……ここなら大丈夫だろうか?)
(しかし、ここだと遮るものが多い……肝心のご来光を見られない可能性もある)
エドモント「……どこから見るのがいいんだろう?」
展望台の端に植えられた大きな木に身を委ね、俺は深いため息を吐いた。
従者「エドモント様、そろそろお戻りの時間でございます」
エドモント「ああ、わかった」
諦めかけた、その時…-。
エドモント「……!?」
木の後ろに、少しだけスペースがあることに気づいた。
(ここなら、〇〇と共にご来光を楽しむことができる)
この場所でご来光を眺める俺と〇〇を想像してみた…-。
(ああ、なんて素敵な一年の始まりなんだろう……)
しかし、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、俺は肝心なことに気づいてしまった。
場所は確認できたのはいいが、俺はまだ〇〇にご来光を見にいこうと誘えずにいた。
エドモント「……〇〇は、俺の誘いを受けてくれるかな?」
(彼女のことだ、きっとたくさんの人から誘いがあるだろう)
(その中で、俺を選んでくれるだろうか……)
不安にのみ込まれ、俺はその場に立ち尽くしてしまう。
従者「……様、エドモント様、お急ぎください……!」
呼びにきた従者の声に、俺はハッと我に返った。
(だから……)
〇〇がご来光を見たいと言ってくれた時、飛び上がるほど嬉しかった。
(勇気を出して、誘ってよかった)
〇〇「わぁ……」
俺の隣で、〇〇がご来光を眺めている。
エドモント「ああ、美しいね」
ご来光よりも、〇〇のことばかりを見てしまう。
(〇〇の笑顔は、何故こんなにも美しいんだろう……)
〇〇「エドモントさん……今日は誘って頂き、ありがとうございました。 こんなに綺麗なご来光を見られるなんて、素敵な一年を過ごせそうです」
エドモント「……〇〇」
(それは、俺が言いたかった言葉だ……)
(〇〇も同じことを思っていたなんて……)
気丈に振る舞おうとしても、込み上がってくる感情を、抑えることができない。
俺は、衝動的に〇〇に抱き寄せていた。
〇〇「エドモントさん……」
俺は、〇〇の顔に近づき……
柔らかなその唇に、口づけをした。
(少し大胆すぎたかな?)
(けど……こんな状況だと、我慢する方が難しいよ)
いくつもの言い訳を並べながら、俺はもっと〇〇を求めてしまいそうになる。
(今日は一年の始まり……つまり特別な日だ)
(だから、この様な大胆な行動も許して欲しい……)
ご来光の光はとても柔らかく…-。
俺の懺悔を許してくれるかのように、二人を優しく包み込んでくれた。
おわり。