月SS そこにある奇跡

窓の外を眺めると、白い粉が舞っている…-。

(山小屋があってよかった……)

凍てつく寒さに、〇〇の体はすっかり冷え切ってしまっていた。

それなのに、〇〇は笑顔を絶やさない。

暖炉の前で震えている彼女を見て、俺は深く反省をした。

(無理をさせてしまった……彼女の体を早く暖めてあげないと)

俺は、ダジルベルクの紅茶を淹れて彼女に渡した。

エドモント「さあ、飲んでみて」

〇〇は、紅茶を一口飲むとほっとため息を吐く。

〇〇「……美味しいです」

〇〇は紅茶の香りを吸い込み、そっと目を細めた。

(俺が淹れた紅茶を、こんなに美味しそうに飲んでくれるなんて……)

〇〇を見ているだけで、心に灯がともる。

〇〇「エドモントさんも、毛布に入りませんか?」

(えっ……!)

〇〇「あの……一緒に入ったほうが暖かいと思います」

〇〇は、心配そうに俺のことを見ている。

(一緒の毛布に入るとなると、すごく彼女に近づくことになってしまう)

(山小屋には二人きり……こんな状況で傍に寄るなんて)

〇〇を大切に思えば思うほど、うかつに近づいてはいけない気がした。

戸惑いを隠せずにいると、〇〇は頬を染めて俯いてしまう。

その表情を見た瞬間…-。

(俺は、〇〇になんて顔をさせているんだ……!)

(〇〇は、心配して言ってくれたのに……)

(俺は、自分のことばかりを考えている)

拳を強く握り締め、俺は決意した。

エドモント「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」

平静を装い、毛布の中へと滑り込む。

エドモント「本当だ、暖かい」

毛布の中で、〇〇の体温が伝わってくる。

今まで以上に〇〇を近くに感じ、鼓動が速まっていく。

(息をするのも難しい……)

エドモント「……」

(だけど……何かを話さないと)

エドモント「ちょうどいい場所に小屋があってよかったね」

そんな言葉しか出てこない自分に呆れてしまう。

けれど彼女は優しく微笑み、同意するように頷いてくれた。

〇〇「そうですね……」

〇〇が、ふと窓の外を見つめた。

〇〇「ご来光……見られなくて残念です。 私のせいで……ごめんなさい」

(そのことを気にしていたのか……)

悲しげにうつむく彼女が愛おしく…-。

今すぐ抱き寄せたい気持ちを押さえて、彼女を笑顔にする方法を考えた。

その時…-。

(鳥の鳴き声?)

外から、小鳥のさえずりが聞こえてきた。

(雪が止んだのか……?)

窓の外は、ほんのり明るくなってきている。

(確か……山小屋の周りには、大きな木々はない)

(晴れていれば、地平線が望めるはずだ)

その思いつきに、思わず笑みがこぼれる。

(これなら、彼女の笑顔も見られそうだ……!)

エドモント「諦めなくてもよさそうだよ」

〇〇「えっ……」

エドモント「おいで」

俺は、〇〇を窓際へと促した。

俺達は、肩を並べながらご来光を待った。

眼前が明るくなっていき、地平線から光が溢れ出す。

まばゆい光が俺達を包み込み…-。

〇〇「わぁ……」

エドモント「ご来光だ……」

俺は、気づかれないように〇〇の横顔を見つめた。

ご来光の光をまとった〇〇は、言葉を失うほどに美しく…―。

この瞬間がまるで奇跡のように思えた。

(目の前にある奇跡に……ためらっていては駄目だな)

今年もよろしくと言い合った後、俺は勇気を出して〇〇の手をぎゅっと握りしめてみた。

〇〇「……!」

エドモント「もう少しこのまま……いいかな?」

〇〇「……」

(……〇〇、驚いてる?)

(少し大胆すぎたかな……)

次の瞬間…-。

エドモント「……!」

〇〇が、返事の代わりに俺の手を握り返してくれた。

(〇〇……)

繋がれた手は、小さくて温かい。

この手を離したくない、他の男になんて渡したくない、俺が守っていく…-。

俺は、そんな抱負を密かに胸に抱いた…-。

 

 

おわり。

 

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