太陽最終話 新しい魅力

大勢の人に囲まれるウィルさんの姿を見て…ー。

少し寂しい気分になった私は、窓の側を離れると、

そのまま部屋のベッドに寝転んだ。

……

(……あれ? 私…ー)

しばらくして自分が少しの間、眠っていたことに気がついた。

部屋の隅を見れば、時計の針が一時間ほど進んでいる。

その時、ホテルの扉がノックされた。

ウィル「よーし、仕事は終わった! ◯◯、行くよ!」

◯◯「えっ、ウィルさん!?」

勢いよく扉を開け放ち、私の目の前まで来たかと思えば……

◯◯「あっ、待ってください、行くってどこへ?」

ウィル「お腹が空いたから、カフェでも行こう」

◯◯
「えっ……?」

腕を意気揚々と掴まれ、ものすごい勢いで部屋から連れ出された。

……

ホテルから出たウィルさんは劇場の方など一瞥もしないで歩き出す。

◯◯「試写、見なくてもいいんですか?」

ウィル「あれは制作なんかでお世話になった業界人やCMのためだよ、僕は散々見てるしね。 それとも君、見たかった? きっとすごく怖いと思うけど……」

◯◯「……えっと……」

ウィル「アハハ! ホント君の反応は素直でたまらないな! けど……」

腕をずっと引くだけだったウィルさんが、私の肩を不意に抱き寄せる。

ウィル「どっちにしろ僕の映画なんて、君ならいつでも見れるから、今は僕の用事を優先してよ?」

◯◯「……はい」

結局、ウィルさんのペースに飲み込まれて、私はカフェへ行くことになった。

店内に入ってテーブルに案内されるなり、

ウィルさんはその場に数々のファイルを広げ始める。

◯◯「これ、なんですか?」

ウィル「何って、映画のための資料だよ」

テーブルの上に並べられたのは……

ウィルさんが至るところで取っていたメモをまとめたものだった。

文字に合わせて、様々なイメージスケッチも幾多と描かれているけれど、その内容は…ー。

◯◯「こ……これって!」

私の反応に、ウィルさんがにやりと口角を上げる。

ウィル「そう。全部君のこと。 ケナルに来てから、今まで……君がどんなシチュエーションで、どんな反応を見せたか」

クスクスと、ウィルさんが笑う。

ウィル「君……何にでもあまりに素直に反応するからさ。 僕の分厚いメモ帳がもう四冊も君のことで埋まっちゃった」

◯◯「そ、そんなこと…ー」

ウィル「不思議だよね。僕も君については、気付くと必要以上に細かくメモを取ってたんだよ」

◯◯「え…ー」

彼の言葉に首を傾げていると……

スチル(ネタバレ注意)

ウィル「実は次回作について、考えているんだ」

◯◯「次回作……?」

ウィル「そう! 次回作。僕、次は君を撮りたいんだ」

◯◯「え……私ですか! ?」

ウィルさんは頷いて、私の姿をフィルター越しに狙うようにする。

ウィル「うん、やっぱりイイ絵になりそうだ!」

◯◯「だけど私、ホラーなんて……」

ウィル「そう、ちょっと君は健康的すぎるんだよね。今までの僕の作風だと」

◯◯「なら、どうしてですか?」

ウィル「どうしてって言われてもなあ……僕が撮りたいから?」

じっと指の間から、ウィルさんが私を眺める。

それは、一つの作品を生み出そうとする映画監督としての真剣な眼差し……

(本気なのかな?)

◯◯「でも、そもそも演技の経験とかもないですし……」

恐縮して肩を竦めると、彼は喉の奥で私を安心させるように笑った。

ウィル「だから、君に合うテーマで作品を作ろうかと思ってるよ。 君でしか撮れない、僕にしか撮れない、新しいムービー。 君のその純粋さが……僕の手によって、人々を恐怖させるものになる」

◯◯「や、やっぱりホラーじゃ…ー」

ウィル「だから、作風は君に合わせて変えるって。けど……。 やっぱり僕は、ホラー監督ウィル・ビートンだから」

ニッと、ウィルさんが妖しい笑みをこぼす。

ウィル「うん、きっとこれまでに撮ったどのフィルムよりいい作品になるよ! そうだな、舞台はどこにしよう、君に合った場所を探して世界中を回るのもいい。 脚本を書き下ろすために、君のことをもっと多く知らないとな……それから、ええと……」

ウィルさんはすっかり盛り上がり、私の話も聞かずに構想を練り始める。

◯◯「でも……」

(私にできるのかな……?)

口を閉じて、彼の視線から逃れるようにうつむくと……

すると彼は、私の顔を指先で上げて微笑んだ。

彼の作り出す独特の空気に、緊張とも昂揚とも知れない気持ちが、胸に広がり出す。

ウィル「大丈夫。僕が監督するんだから、君は何も心配いらない……。 だから、もっと君のことを僕に教えて……これからは、四六時中一緒にいて……ね?」

これまで聞いたどの声より甘い声で、誘うように言われて……

胸の内側が、ざわざわと騒ぎ出した。

(挑戦してみてもいいかな……?)

そう自然に思い始めたのは、彼の持つ才能の魔法のせいかもしれなかった…ー。

 

 

おわり。

 

 

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